内容説明
三沢順子は、大学卒業後R新聞社に入り、資料調査部に配属された。記事や写真などを整備しておく縁の下の力持ち的な部署である。その日、ある人物の写真を求められ、すぐに渡したのだが、何と別人のものだった。このミスが波紋を呼び、上役が左遷される事態を招いてしまうが―。男たちの野望や策略を目の当たりにした、一人の女性の心情を描き出す傑作小説。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年北九州市生まれ。給仕、印刷工などの職業を経て、朝日新聞西部本社に入社。懸賞小説に応募入選した「西郷札」が直木賞候補となり、’53年に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞受賞。’58年に刊行された『点と線』は、推理小説界に「社会派」の新風を呼び、空前の松本清張ブームを招来した。ミステリーから、歴史時代小説、そして古代史、近現代史の論考など、その旺盛な執筆活動は多岐にわたり、生涯を第一線の作家として送った。’92年に死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しーふぉ
21
ミステリーなのかな?人が死ぬ訳でもないし。謎が提示される訳でもないですね。それでも何となく読ませてしまうのはさすが。2023/11/23
とめきち
14
昭和38年『女性セブン』に連載。R新聞社の新入社員・三沢順子の心情をつらつらと綴った話。理不尽な上司、誠実そうに言い寄ってくる同僚の男、逃避行だとか言うが最後は自己保身に走る社長…。順子は出てくる男たちに次々と嫌気がさす。大事件が起こるでもない展開ながら順子に共感し、溜飲が下がった女性読者も多かったのでは。よくこんな女性の心情を書けるなぁ。当時、清張に影武者がいたというデマが流れたのも納得。今回も旅情を誘う展開多し!逃避行で京都では飽き足らず阿蘇まで行っちゃう始末!浅虫温泉まで行った戸谷先生を彷彿させるw2025/04/30
七色
6
最後はあっけなかったな・・。夜の蝶へと転身(一時的??)した主人公でした。色々あってしたたかになったのね。新聞社の中での良い感じの雑音が聞こえてきそうな。どこか、コミカルな抒情的な気もして。良かった。何が、人を変えるのかは、解らない・・・。2020/07/30
yonemy
5
昭和38年の女性の自由な生き方がこれかああ...隔世の感。女の暮らしは男無しでは成り立たない時代だったのか。こちらは60年前のお話だが、貨幣価値を鑑みると、入社1年の新聞社員やナイトクラブの売れっ子のギャラは今より高いのでは?労働者の賃金が上がらず、企業の内部留保だけは着実に増えている、その序章が往時からあったのか? 日本が現在に至る遠因を半世紀以上前の社会派小説に示唆を受けたようで、こんな読書もあるのかと目から鱗。2022/07/31
sekkey
5
久々の清張さん。仕事のたった一つの些細なミスから物語が大きく動く。企業社会の人間模様、権力争い、それの影響をまともに受ける社員たち。これらを一介の女性の視点から見事に描き出している。主人公の女性の豹変ぶりにも驚くとともに頁を繰る手が止まらない。小さな出来事から大きな事件へ。さすが清張さん!2022/03/26