内容説明
農林省食糧管理局長・岡村福夫は、同省の倉橋課長補佐が汚職の重要参考人になったことをうけて、視察先の札幌から深夜に呼び戻された。よけいなことをきいてはならぬのが保身の術、という哲学の総務課事務官・山田喜一郎は、ことの成り行きを、傍観者として眺めている。政権や上級官僚に翻弄される一介の役人の悲哀と、現代社会に通ずる、官庁汚職を描く。長編推理小説。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年北九州市生まれ。給仕、印刷工などの職業を経て、朝日新聞西部本社に入社。懸賞小説に応募入選した「西郷札」が直木賞候補となり、’53年に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞受賞。’58年に刊行された『点と線』は、推理小説界に「社会派」の新風を呼び、空前の松本清張ブームを招来した。ミステリーから、歴史時代小説、そして古代史、近現代史の論考など、その旺盛な執筆活動は多岐にわたり、生涯を第一線の作家として送った。’92年に死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
72
1965年雑誌連載の文庫もの。安定した面白さであ!という間の読了。「田舎の・・」の冠を付けた温泉作並の河原で見つかった転落死体。これまた、安定した「保守政権の下のキャリア官僚と企業のズブズブもの」切られるのは弱小トカゲの尻尾。どうかすると検察も警察も?なんて考える昨今であります。半世紀経て日本人のDNAは大きく変化みせる訳もなく「禊は済んだのよ」なんてほざく女もいます。脳活性化の為にも毎日でも読みたくなる・・清張!であります。因に事件は実在・・溯上すること10余年前の砂糖の輸入割り当てを巡る贈収賄です2024/11/05
川越読書旅団
37
官僚と政治家が絡む汚職事件、社会派ミステリの源流的作品。この作品を読むと松本先生の思想や哲学がその後の同系列作品にどれだけ影響を与えてきたのかを理解する。ドラマも捨てがたいが、やはり紙面に躍る氏の芸術こそ本物なり!2021/05/29
どら猫さとっち
9
光文社文庫の松本清張プレミアムミステリーでは、隠れた名作の宝庫で、数多くが刊行されている。本書もそのひとつで、砂糖汚職事件をめぐって、政権と上級官僚に翻弄される役人と、現代社会に通ずる官庁汚職を描いたもの。本書を読んで、森友事件のことを思い出していた。半沢直樹より、これが面白いと思う僕は、どうなんだろうか。2020/09/28
ササヤン
9
先日の森友学園問題を思い出すような小説だった。「わたしに自殺しろという暗示のようにきこえますが」 この倉橋課長補佐の言葉が痛いほど脳裏に突き刺さる。不問に付された現実の汚職事件の数々には、こうした下級官僚の自殺、不審死が日本の政治史の裏にはあるのではないだろうか。松本清張はフィクションながら、こうした日本の政治史の闇に切り込んだ気骨のある、古風な言い方として侠客心がある作家だったと感じた。松本清張が森友学園問題を小説として書いたら、どんな作品になっただろうか……2020/04/07
パチーノ
8
評価が割れているようだが個人的には面白く読めた。 砂糖を巡る贈収賄。キャリアとノンキャリア。隠蔽工作に天下り。もしこのようなことが平然と罷り通る世の中になってしまうと警察組織への信頼は失墜する。たまに見かける問題もあるが揉み消されてる問題もあるんだろうなと思うとゾッとする。2020/09/29