内容説明
熱海の旅館で湯田真壁なる男が殺された。所持品から特定の人物を脅喝していた疑惑が浮上、湯田に恨みを持つ者を絞り込む捜査陣だが、疑いのある人物にはすべてアリバイが成立していた。捜査は行き詰まり、バトンは警視庁の鬼貫警部に委ねられた。1ダースの容疑者を相手に鬼貫の執拗な捜査が始まったが、その真犯人とは―。第十三回日本探偵作家クラブ賞受賞作。
著者等紹介
鮎川哲也[アユカワテツヤ]
1919年東京生まれ。『黒いトランク』をはじめとする鬼貫警部もの、また『りら荘事件』に代表される名探偵星影龍三もの等、日本の本格推理の歴史に多大なる足跡を残す。2002年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
72
鬼貫警部シリーズ第5弾。昭和35年日本推理作家協会賞は、「黒い白鳥」と本作という鮎川作品ダブル受賞の快挙でした。鬼貫警部が地道な捜査で、犯人のアリバイを崩す安心の王道作品です。しかし今回は、アリバイ崩しの対象者が12人もの数に上ります。複雑な展開と綿密なプロットは、ブランドの信用力のごときです。本作は真犯人にたどり着くまで、二回にわたるアリバイ崩しが在るが、決して解けない謎ではなくミステリーの醍醐味を味わえます。「憎悪の化石」とは何か、全て終わった後にその意味が分かると供に、愛の哀しさに包まれるでしょう。2015/11/04
hit4papa
60
鬼貫主任警部が、地道な捜査で殺人事件を解決する本格ミステリです。行き詰まりとなった殺人事件の捜査を引き継ぐかたちで登場するのが鬼貫主任警部と丹那刑事。これは、このシリーズのパターンですね。鬼貫主任警部らが、もう一度、聞き込みをおこないながら、綻びを見つけて事件解決への突破口とするのです。本作品は、鬼貫主任警部が、真犯人にたどり着くまでに二回のアリバイくずしをおこないます。なかなかお目にかかれない趣向ではあるのですが、”足で訊く”捜査が十分に描かれておらず、物足りなさを感じてしまうかもしれません。【推協賞】2020/02/10
ヨーコ・オクダ
28
鬼貫警部シリーズ。他人の弱みをネタに強請りで稼いでいた男・湯田が熱海の旅館で殺される。まずは強請られていたと思われる人物たちの特定、そして彼らの弱み、湯田の殺害時刻のアリバイを探っていくのが前半。結果として、全員にアリバイあり。後半は、鬼貫が仕切り直し。さらに深く、細かく、鋭い捜査。湯田を殺害するつもりで熱海に向かった人物よりも1足先にそれをやってのけたのは誰か?殺人犯にならずに済んだ人物のトリックも、ホンマもんの殺人犯のトリックも興味深い。ダイヤ改正の際の長距離列車の対応策には「へぇボタン」押したいわ。2019/10/05
クリンクリン
17
古き良き推理小説。複雑怪奇でなく王道のストーリー。今の大義のミステリーに慣れると、逆に新鮮に感じます。足や聴き込みによる捜査が主体なのは現在の科学捜査を考えると古くさいのかもしれませんが、容疑者を絞っていく過程なんかは読んでいて面白いです。時間軸の思い込みや時刻表によるトリックも出てきますが、難しすぎずに理解をすることができます。「黒い白鳥」に比べると評価は下がりますが、自分としては「憎悪の化石」 も面白いと思います。まだ読まれてない方、鮎川哲也が嫌いではない方は一読をお薦めいたします。2015/09/20
タリホー
16
熱海の旅館で見つかった男の刺殺体。恐喝者の彼を殺したと思しき容疑者は12人で、いずれのアリバイも強固なものだった。鬼貫警部シリーズ長編作で、前半部は容疑者探しとアリバイ確認、後半部は鬼貫警部によるアリバイ崩しの捜査という構成になっている。容疑者全員が平等に疑われる展開ではないので、容疑者12人というのはやはり多かったかなという印象。長編としてはアリバイトリックの派手さに欠けるがこれは致し方ない所だろうか。ただ、アリバイトリックを崩すための「違和感への気づき」の部分は巧いと感じた。2018/07/28