内容説明
世話になった屋敷の娘との別れ際、どうも心が動かない青年を描く「ヴェーロチカ」、精神科病棟の患者とのおしゃべりに愉しみを見出すも、周囲との折り合いが悪くなっていく医師を描く「六号室」など、人間の内面を深く覗き込んだチェーホフによる転換期の短篇6作を収録した傑作選。
著者等紹介
チェーホフ,アントン・パーヴロヴィチ[チェーホフ,アントンパーヴロヴィチ] [Чехов,А.П.]
1860‐1904。ロシアの作家。南ロシアのタガンローグ生まれ。モスクワ大学医学部入学と同時に新聞・雑誌への執筆活動を始め、生涯に600編にのぼる作品を残した。ロシア文学伝統の長編と決別し、すぐれた短編に新境地を開いた。晩年には戯曲に力を注ぎ、『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』の4作品は世界的な名作として知られる。44歳の誕生日にモスクワ芸術座で『桜の園』を初演。直後、体調を崩して病状が悪化し、7月療養先の南ドイツで死去
浦雅春[ウラマサハル]
1948年生まれ。ロシア文学者。チェーホフを中心としたロシア文学、ロシア・アヴァンギャルド芸術の研究を手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
79
『六号室』が印象に残りました。病院の乱脈で劣悪な状態を変えようとせず、「暖かで静かな書斎」に籠っていた医師が、自身が病棟に入ることになって初めて20年以上も知ろうともしなかった「生活」、暴力や空腹に打たれて破滅する物語で、作者は本書所収の『流刑地にて』でも社会や生活と戦わず、何も期待しないことで日々をやり過ごそうとする人物に「お前は生きていない」という言葉を浴びせていますが、ここにあるのは『ワーニャおじさん』で示された、人間はどんなに苦しくても生きねばならないというメッセージとも通底するように思いました。2024/02/02
星落秋風五丈原
31
『カシタンカ』 ダックスフントとお屋敷の番犬の雑種カシタンカは、指物師ルカー・アレクサンデルの家族と暮らしていたが、町ではぐれてしまう。 もし、カシタンカが人間だったら、こう考えていたに違いない。 「だめだ、これでは生きていけない!猟銃自殺でもするほかない!」(p45) などとチェーホフは書いているが、いえいえカシタンカもうちょっと現実的だったようですぐ新しい飼い主が見つかる。おばさんと呼ばれてもカシタンカはご飯さえあればご機嫌。とはいってもこの飼い主、何だかヘンである。さあカシタンカの運命は?2024/02/21
フリウリ
8
「ヴェーロチカ」「カシタンカ」「退屈な話」「グーセフ」「流刑地にて」「六号室」の6編所収。「六号室」(1892年)は正常と異常の境界認識のズレがテーマですが、「狂気」という「異常」を「正常」からの延長とみる19世紀精神医学の思潮(byフーコー)を背景におくと、医師の思考と行動、また一般民衆のそれらとのズレを、もう少し突っ込んで読めるように思いました。「退屈な話」の「ベルジーチェフ」の訳注で、「バルザック、ベルジーチェフにて死す」という形で何度かチェーホフが言及している、とあり、気になりました。82024/10/09
tharaud
6
収載されているのは暗い作品が多いが、解説に書かれているように、思えばたしかにチェーホフの多くの作品で「内面の空虚」が描かれているように思う。もう一冊、どうやら古典新訳文庫から出るようだ。楽しみにしている。2023/11/12
えっ
3
図書館返却まで時間がなくて流し読みしちゃったのでまたいずれ読み直したいところ。偏屈になりたくない、見られたくなくて隠してる偏屈っていう感じが滲み出ていて味がある。カシタンカの優しい雰囲気が浮いて見えるのが、動物に甘くてまた良いです。犬を連れた奥さんやオーレンカなんかに比べてチェーホフ本人について考える隙のある本でした。こういうのもあるんだなと面白かった。六号室は結構読むのがきつかった。グーセフも良い。2024/05/18