出版社内容情報
ドストエフスキー[ドストエフスキー]
著・文・その他
高橋知之[タカハシ トモユキ]
翻訳
内容説明
都会で暮らす私は、育ての親であるおじの召使から、故郷での異常事態について知らされる。祖母に取り入った居候が口八丁を弄して家庭の権力をほしいままにしているというのだ。彼と対決すべくかの地に向かうが、癖のある客人や親戚たちの思惑にも翻弄され、予想外の展開に…。
著者等紹介
ドストエフスキー,フョードル・ミハイロヴィチ[ドストエフスキー,フョードルミハイロヴィチ] [Достоевский,Ф.М.]
1821‐1881。ロシア帝政末期の作家。60年の生涯のうちに、以下のような巨大な作品群を残した。『貧しき人々』『死の家の記録』『虐げられた人々』『地下室の手記』『罪と罰』『賭博者』『白痴』『悪霊』『永遠の夫』『未成年』そして『カラマーゾフの兄弟』。キリストを理想としながら、神か革命かの根元的な問いに引き裂かれ、ついに生命そのものへの信仰に至る。日本を含む世界の文学に、空前絶後の影響を与えた
高橋知之[タカハシトモユキ]
1985年千葉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。現在、千葉大学大学院人文科学研究院助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
123
訳者は「ユーモア小説」としているが、自分の親戚が他者の思うがままに支配される有様を直視しなければならないとは下手なホラーより恐ろしい。祖母に取り入って伯父の家を支配する居候の煽動政治家かカルト宗教の教祖を思わせる洪水の如き弁舌は、相手に反論の隙を与えず罪悪感を抱かせて何でも要求を受け入れさせてしまうのだから。そんな怪物におもねる周囲の連中は、利権を求め権力者に群がる現代人と何ら変わらないあさましさだ。筒井康隆の精神がドストエフスキーに転移して書かせたかと錯覚するほどで、晩年の大作より預言的な響きを感じる。2023/01/04
藤月はな(灯れ松明の火)
72
人の良さが美徳である叔父の家を御託を並べて支配するよからぬ輩とその取り巻きがが支配している事を知ったセリョージャ。早速、叔父を助けに行くが・・・。ドスト作品特有の「人の話を聞かずにノンブレスで喋りまくる人々」が炸裂。ほとんど、会話文なので地の分が出てくると一息できる始末です。最初、セリョージャのフォマーに傾倒する余り、伯父さんを一緒になって罵る祖母への心の中での悪口が的を得ていて吹きそうになりました。しかし、余りにも人が良いためにフォマーの軽口に流される伯父さんに苛々する様になるとは思いもよらなかった。2022/11/27
NAO
64
ステパンチコヴォ村の領主屋敷を舞台とした、ドストエフスキーには珍しいドタバタコメディ。再婚した夫の死後息子の屋敷に居候たちもろとも引越してきた将軍夫人。将軍夫人と彼女の取り巻きに絶大な支持を得ており、ステパンチコヴォ村に来て将軍夫人以上の横暴ぶりを発揮するフォマー。この二人に対してなんらなすすべもない善人の見本のような領主ロスタネフ。おじを救うべく都会から戻ってきた語り手のセルゲイ。ドストエフスキーならではの超個性的な人々の饒舌。ハッピーエンドの喜劇とはいえ、フォマーの怪物ぶりに空恐ろしさを感じる。2022/12/11
星落秋風五丈原
37
伯父の陸軍大佐エゴール・イリイチ・ロスタネフは退役後遺産で手に入れたステパンチコヴォ村に移住する。軍の規律正しい生活からいきなり村の牧歌的な生活は大転換だが、伯父はうまく馴染んだようだ。伯父は容姿端麗で40歳、妻は病没し、8歳の息子イリューシャと15歳になる娘サーシェンカが父親と一緒に村にやってきた。親子3人水入らずののどかな暮らしと思いきや大佐の母がとんでもないキャラ!これだけでも大変なのに、更に目の悪くなった将軍の読み聞かせとして雇われたフォマー・フォミッチ・オピースキンが現れたからさあ大変。 2023/01/23
田中
30
正直者の地主ロスタネフは優しく謙虚な人である。かの屋敷に居候というか逗留というかそんな曖昧なよく分からない人々が何かと詭弁を弄するから悩ましい。狂想が渦巻くのだ。なぜか、館の中心に鎮座しているのは、弁が立ち、信望されているフォマーである。この作品はドストエフスキーが38歳で上梓した。国内初めての完全翻訳本だ。後の五大長編群の萌芽を感じる中編小説だろう。いつものような重厚な思想性を読み解くというより、軽妙な恋愛模様であり、とにかく会話が多く読みやすい。終盤の予期せぬ大団円に驚いた。ディケンズの影響を感じる。2024/11/09