内容説明
ロンドンの片隅で雑貨店を営むヴァーロックは、某国大使館に長年雇われたシークレット・エージェントである。彼はその怠惰を雇い主に咎められ、グリニッジ天文台の爆破事件を起こすよう命じられるのだが…陰鬱な社会とアナキストたちをめぐる人間模様を皮肉な筆致で描いた小説。
著者等紹介
コンラッド,ジョゼフ[コンラッド,ジョゼフ] [Conrad,Joseph]
1857‐1924。ロシア占領下のポーランドで没落貴族の家に生まれる。父が独立運動に関与したため一家は流刑、両親を早くに亡くす。16歳で船乗りをめざし、仏英の商船で世界各地を航海する。このときの見聞が、後の創作活動に大きな影響を及ぼす。ポーランド語、フランス語を操り、小説は英語で書いた。1886年イギリスに帰化。1895年『オルメイヤーの阿房宮』で文壇にデビュー。他の代表作に、『密偵』『ロード・ジム』など。晩年は痛風と鬱病に悩まされた。1924年、ナイト爵叙勲を辞退。同年、心臓発作のため自宅にて死去
高橋和久[タカハシカズヒサ]
1950年生まれ。立正大学教授、フェリス女学院大学客員教授、東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
117
岩波の『密偵』を読んだ時にあまりコンラッドらしく思えず、訳のせいか?と新訳を読んでみたが、こちらの訳は私のリズムには合わず読みにくかった。内容としては、岩波の方がするりと入ってきたなあ。こんなに偉そうにされて、無理難題をつきけられても、スパイでいる価値はあるのかしら。光文社さんには、既訳のものを新訳することにこだわらず、まだたくさんある未訳を訳して紹介して欲しいと思う。2019/07/29
道楽モン
41
1907年刊行のコンラッドによるスパイ小説。ディケンズの影響が色濃く、前半は陰鬱なロンドン下層民の生活、男尊女卑が当然の社会をみっちり。後半のロンドン警察のスリリングな追求部分から俄然面白くなり、人気作家であったコンラッドの面目躍如だ。1894年のグリニッジ天文台爆破未遂のテロ事件をモデルに、当時のアナキストや体制の飼い犬である間諜の正体を揶揄し、テロに対しての英国流キツイ皮肉は大衆受けしたことだろう。何度も映画化されているが、有名なのは1936年のヒッチコック『サボタージュ』。かなり脚色されてるけれど。2024/12/18
シッダ@涅槃
32
なんの予見も持たず読むのが良いだろう本。よってレビューはこれまで。文章の密度の濃さのため読むのに時間がかかったが、コンラッドの手によるそれは、情景の浮かび上がりの良さ、心理描写の巧みさを感じさせる。2019/12/14
花乃雪音
25
爆破テロを扱った時代を先取りした作品として再評価された。責任の所在があいまいとなり誰が悪と断ずることがしずらい。それは世間における絶対的な悪の存在を否定することに見えるが、個人の行動が世間の動きには価値がないように表現されているように見えた。テロを起こした側や彼らを捕まえる側も時代の潮流に影響を及ぼすに至らないものは犠牲の如何を問わず水面の波紋のようなものと言われているようだった。2021/11/11
kaze
13
タイトルの持つ冒険活劇的なイメージとは裏腹に、全編に漂うのはじめじめとした辛気臭さである。シークレットエージェントなどというカッコいい名前の仕事をしているはずのヴァーロックは、実際は何もしてない。そこに集うアナーキスト達も口ばっかりで何もしていない。かろうじてドラマがあるとすればそれはウィニーに纏わる箇所で、彼女の心の動きは理解できる。ドラマが少ないからつまらないと言うことはなく、この時代のロンドンの空気感が体感できる感じ。決して楽しいものではないけれど、救いがないとまでは思わない。2021/04/07