出版社内容情報
ホーフマンスタール[ホーフマンスタール]
著・文・その他
丘沢静也[オカザワ シズヤ]
翻訳
内容説明
言葉はウソをつくから当てにならない、と気づいたチャンドス卿が、もう書かないという決心を流麗な言葉で伝える「チャンドス卿の手紙」。世間知らずのうぶな青年の成長物語「アドレアス」(未完)。世紀末ウィーンの天才ホーフマンスタールを代表する表題作を含む散文5編を収録。
著者等紹介
ホーフマンスタール,フーゴー・フォン[ホーフマンスタール,フーゴーフォン] [Hofmannsthal,Hugo von]
1874‐1929。ハプスブルク朝オーストリア文化を代表する文豪。世紀末ウィーンでは神童と呼ばれ、流麗な詩や散文作品を書いていたが、現代散文の先駆けである『チャンドス卿の手紙』執筆を転機として、舞台作品に軸足を移す
丘沢静也[オカザワシズヤ]
1947年生まれ。ドイツ文学者。首都大学東京名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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コットン
56
5編の散文。『チャンドス卿の手紙』以降、著者は仕事の軸足を演劇に向かわせたと解説で書かれているように、この物語を読むと視点が見ることに重きを置いていることが分かった。2019/03/25
ころこ
31
目を惹くのは1902年に発表された『チャンドス卿の手紙』でしょう。断念されたというベーコンに宛てた手紙が、解説ではウィトゲンシュタインと並んで「語り得ぬもの」、つまり超越論的仮象の倫理を示しているとしています。あえて異なる読みをすれば、この言葉を失った断念を、不能性の問題と考えられないでしょうか。近代のはじまりには展望があった。既に小説の可能性は汲み尽くされて、20世紀には才能を発揮できる新しい地平は広がっていない。決定的に出遅れた20世紀人として、自らの存在は必然的に不発に終わらざるを得ない。三島由紀夫2018/11/15
ぺったらぺたら子
25
命のかたちを芸術家は本当に見、そして描いてきたのか。世界を裸のままに受け取る事を妨げる制度としての言葉や概念。記号による分割で表現されたものを集めた還元主義によって、世界は再現出来るのだろうか。文化や常識、モードやコードによる恣意的な角度を強いられた美は命を伝えているのだろうか。形式は素材に対して謙虚でありうるのだろうか。形式は素材から命を奪い、また、形式を外れた素材・ノイズを見えなくさせてはいないだろうか。チャンドス卿的転回とは魂の再発見であり、「からだ」の復権であり、有機的な全体性との邂逅である。2020/04/16
かふ
18
ウィーン世紀末の作家ホフマンスタールを決定付けた『チャンドス卿の手紙』は、芸術を志す詩人のような表現者である主人公(貴族的)の足元が崩壊して、精神の彷徨う姿を描いている。それは今の電脳空間の社会とも関係があるよに思える。つまり精神と肉体が分離されて、身体が彷徨うしかない状態なのだ。そこに主人公は言葉の限界(電脳社会に通じる)を感じ神の姿を見てしまうのだ。それは世界の現れとしての神で、ベーコンへの手紙という作品スタイルも、そういう精神世界のことに言及しているのだ。2022/11/10
ふるい
12
数多くの芸術が花開いた世紀末ウィーンにおいて神童と称された、若きホーフマンスタール。「チャンドス卿の手紙」をはじめとした彼の極めて端正な散文は、言葉と向き合い続け精緻な探求を行った文学者の一つの到達点と言えるだろう。「第674夜のメールヘン」が好きなんだけど、タイトルはどういう意味なんだろう。未完に終わった「アンドレアス」は、どのような結末を迎える予定だったのか。2019/12/25