出版社内容情報
ナボコフ[ナボコフ]
貝澤哉[カイザワ ハジメ]
内容説明
ロシア育ちの多感で夢見がちな少年マルティンは、両親の離婚とともに母に連れられクリミアへと移る。その後、革命を避けるようにアルプスへ、そしてケンブリッジで大学生活を送るのだが…。うねるような息の長いナボコフ独特の文章を忠実に再現、「自伝的青春小説」が新しく蘇る。
著者等紹介
ナボコフ,ウラジーミル[ナボコフ,ウラジーミル] [Набоков,Владимир]
1899‐1977。ロシア出身の多言語作家。サンクト=ペテルブルクの貴族の家庭に生まれる。1919年、革命を避けて出国。’20年代から、ベルリンやパリのロシア語新聞、雑誌に「シーリン」の筆名で作品を寄稿し始め、短篇から中篇、長篇と数多くの作品を刊行し、またフランス語、英語での創作にも手を染めた。’37年、ナチス支配のドイツを逃れ、フランスに移住。’40年にはアメリカに移住した。英語で執筆され、’58年にアメリカで刊行した『ロリータ』は大きな話題となり世界的名声を獲得した
貝澤哉[カイザワハジメ]
ロシア文学者。早稲田大学文学学術院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
84
面白かったです。ナボコフの自伝要素も入っているので、ロマンス小説でありながらも成長譚としても読める作品だと思います。離婚を機に、様々な土地を転々とするマルティン。それはある意味、ナボコフの亡命の歴史のようにも見えました。必然を犠牲にし、偶発的な偏愛が描き出す芸術と自伝的青春小説の要素が挑発的でもあり、読者を魔術にはめてしまうのが魅力だと感じます。2017/05/29
やいっち
70
ナボコフが初期にロシア語で書いた長編の四作目。時に邦訳題名が『青春』や『栄光』だったことから分かるように、自伝的要素を色濃く反映した青春小説という理解だったとか。訳者は、そんな読み方も可能だとした上で、他の読み方ができると言う。読んでみると、かなり野心的な作風。方法的自覚が強いナボコフならではの、ややとっつきにくさを感じることも。若書きなのか。2020/04/09
藤月はな(灯れ松明の火)
25
ナボコフの半自伝的小説。夢見がちなマルティンは両親の離婚、ロシア革命からのイギリスへ亡命などをくぐり抜けていく。しかし、自分を人生の主人公のように捉えているマルティンは却って主人公感がしない皮肉があるのは、彼が常に周囲に流されているからだろうか。特に始めて童貞を捨てたけど、相手が美人局だったのに「童貞を捨てたぞ」とほくそ笑む姿はとても滑稽。そして自分の夫も子供から遠ざけようとするマルティンの母は全力で子供に依存してくるタイプなので好きになれません。一文一文が長文過ぎて流れに乗れないと弛れます。2017/01/18
おおた
23
お得意の「連環の術」があちこちに見え、ナボコフは読めば読むほど楽しくなるから一冊で諦めないのが肝。車窓から電線を眺めて電柱が流れをせき止める(P.122)のは『ナボコフの一ダース』に収められた短編(なんだったかな?)を彷彿させ、主人公が繰り返す「国を追われた身(イズグナンニク)」は通奏低音のように響いてラストへつながる。「いずくに行く」と偶然日本語とも被るように読めるのもおもしろい。P.233〜234のキャンディにまつわる表現にくるまれる時、ナボコフを読んでいる感慨に浸ります。苦手な人は後書きからどうぞ。2017/08/13
ネムル
11
解説で丁寧にナボ・マジックについて語られていて、なるほどと思う一方、サスペンスに満ちた道具立てのない筋が退屈でいまいち魅力を感じなかった。だらだら長い長文小説はわりと好みなのだが、やはりはまれず。いままでナボを読んで退屈したことがなかっただけに、ナボの世界のひとつに振り落とされたようで、少し悲しかった。2017/09/19