内容説明
ホブソン、レーニンに先駆けて書かれた「帝国主義論」の嚆矢。仏訳もされ、基本文献として高く評価されている。師・中江兆民の思想を踏まえ、徹底した「平和主義」を主張する「反戦の書」。大逆事件による刑死直前に書かれた遺稿「死刑の前」を収録。
目次
二十世紀の怪物 帝国主義(まえがき;愛国心を論ずる;軍国主義を論ずる;帝国主義を論ずる;結論)
死刑の前(腹案)
著者等紹介
幸徳秋水[コウトクシュウスイ]
1871‐1911。明治時代の社会主義者、著述家。高知県出身。本名は伝次郎。少年時代に自由民権思想の影響を受ける。中江兆民に師事し、万朝報の記者となる。片山潜らと日本で最初の社会主義政党である社会民主党を結成するが、即日禁止となる。直後に万朝報社内に結成された理想団に参加。さらに堺利彦らと平和主義・社会主義・民主主義を旗印として「平民新聞」を発刊し、日露戦争反対の論陣を張る。のちに渡米し、クロポトキンらの影響でアナキズムに傾く。大逆事件の首謀者とみなされ、刑死
山田博雄[ヤマダヒロオ]
1995年、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(政治学)。日本政治思想史専攻。中央大学法学部兼任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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肉尊
89
20世紀の帝国主義は愛国心と軍国主義から紡ぎ出された怪物だ!幸徳は愛国心自体を批判しているわけではない。その対象が他人に向かず、自らの虚栄心を満たす手段となっていることが問題だ。愛国心は憎悪を伴い、その矛先を同胞にむける。帝国主義の真似事を始めた日本は隙を視て銃や軍艦の威力を実地に試そうとする。半人前国家に「切取強盗」をさせてはならない。この本が問題視されたのは、寧ろ軍国主義。幸徳の問いに誰も何一つ反論できないからだ。自らの信念に風穴をあけられた帝国軍人にとって幸徳は憎い存在。消えてなくなってほしいほど。2023/01/16
藤月はな(灯れ松明の火)
75
「平和とは何か」が問われる今だからこそ、読みたい、社会主義・無政府主義者であるが故に大逆事件で死罪された幸徳秋水の書。しかし、幸徳秋水は決して天皇を貶めていたのではなく、平和を愛する天皇陛下のことに敬意を払っていた。彼の非難の矛先は「帝国主義」というエゴイスティックなナショナリズムを掲げた侵略・奪略を行い、利益を貪ろうとする資本家や政治家・軍部の上層部に向けられていた。表題作の他に「これも天命だったのだろう」という悟りを綴った「死刑の前」もあるがこちらも現状を思うと遣る瀬無いものがあります・・・。2015/08/30
マエダ
71
帝国主義とは”卑しむべき愛国心を行動にうつすために、憎むべき軍国主義をもってする、一つの政策の名称にすぎない”と説いている本書。支配側の良心が功名心と利欲で覆い隠され、正義と道徳の念が動物的な本能である好戦的な心に圧倒されるときそれはおこる。2018/11/04
molysk
65
ああ二十世紀の新しい世界、われわれは世界の平和と自由と平等を望む。しかし帝国主義はこれを破壊する。まったく帝国主義以上に大きな文明の危険はない。帝国主義は「愛国心」を経糸とし、「軍国主義」を緯糸として、織りなされた政策だ。愛国心は、共通の敵に対する好戦的な本能に過ぎない。軍国主義は、軍人と資本家が焚き付けた意味のない誇りなのだ。野獣が肉を求めるように、帝国主義は領土を求める――。二十世紀が幕を開けた明治33年、幸徳は本書で帝国主義を糾弾して、非戦論を展開していく。明治44年、大逆事件の首謀者として、刑死。2023/09/10
cockroach's garten
26
東洋のルソーと讃えられた中江兆民の弟子で、無政府主義の立場から社会を論じた明治の思想家秋水。彼はのちに無罪であったとされる大逆事件の容疑者の一人として処刑された。事実だけを見ると彼は危険人物であったかもしれない。しかし、本書『帝国主義論』において鋭く冷静に世論の熱狂を冷笑する様はその後の日本の末路を予見していたような。彼はただ人道的な倫理観から軍国主義ならびに拡張主義を批判していただけであった。一つの勢力を盲信するのはいかに危険であるかがこの秋水の言葉から解ると思う2018/08/21