内容説明
若者になった「私」はジルベルトへの恋心をつのらせ、彼女の態度に一喜一憂する…。19世紀末パリを舞台に、スワン家に出入りする「私」の心理とスワン家の人びとを緻密に描きつつ、藝術と社会に対する批評を鋭く展開した第二篇第一部「スワン夫人のまわりで」を収録。
著者等紹介
プルースト,マルセル[プルースト,マルセル] [Proust,Marcel]
1871‐1922。フランスの作家。パリ郊外オートゥイユで生まれる。9歳のとき喘息の発作を起こし、以来、生涯を通じて宿痾となる。十代は母親の愛情を一身に受けて育ち、パリ大学進学後は社交界へ出入りするかたわら文学に励む。三十代の初めに両親と死別、このころから本格的にエッセイやラスキンの翻訳を手がけるようになる。1912年、『失われた時を求めて』の原型ができあがり、1913年第一篇「スワン家のほうへ」を自費出版。その後もシリーズは続き、1922年第四篇「ソドムとゴモラ2」が刊行されるが、気管支炎が悪化し、全7篇の刊行を見ることなく死去
高遠弘美[タカトウヒロミ]
1952年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。明治大学教授、フランス文学者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
SOHSA
43
《kindle》再読。長編作品であるこの小説の中でも、本篇はひときわ彩りやかに登場人物とその背景が描かれている。結婚後のオデットの鮮やかな変貌、既にここで登場するアルベルチーヌの奔放さと小悪魔的片鱗、そしてスワンと類似する語り手のジルベルトへの恋情・苦悩と屈折した心理。一人ひとりの息づかいが文章の中から聞こえてくる。 高遠訳は特にそれがよりダイナミックに立体的に伝わってくる。一文、一語を味わいながらゆっくり読むことが私にとってことのほか愉しく心地良い。2018/06/29
ちぃ
43
読み始めは、「かなり読みやすくなってきたかも♪」と思ったのに結局すごい時間かかってしまった…社交界のなんちゃらとか当時の文化とかこの本を楽しむポイントはたくさんあるんだろうけど、スワンの恋からの流れで、やっぱり恋って病気なんだなぁ(´・_・`)と思う一冊でした…2017/03/13
SOHSA
36
《購入本》巻を重ねるにつれ読むスピードが徐々に上がっていく。緩やかな流れが勢いを増し急流となるかのように、作者の読み手を惹き付ける力はいや増すばかりだ。語り手の「私」のジルベルトに対する恋情は、読むのが辛くなるほどだ。いつのまにか読み手自身のささやかな過去と相まって、残り火の記憶がチラチラと再燃する。思春期の一方的な恋心は確かに「私」の恋情そのものだった。時が過ぎ去り、角が取れて丸みを帯び、やがて心穏やかに過ごすことが可能になる。スワンの恋心が(→)2016/07/01
おおた
27
前巻までのスワンから一転して語り手の「私」にまつわる恋模様。目次の「スワン夫人のまわりで」とあるように、2巻では恋の中心だったスワン夫人ことオデットがサロンを開き、私はそこに出入りして娘のジルベルトに恋をする。そのやりとりはスワンの恋路を再現するようで、もっと若者らしいいじましさがある。プルーストの記す詩的な文章は時に恋を追いかけ、時に時代風物を克明に描写し、あらゆることを文章で描き出そうとする。そこにのれるかどうか、プルースト色に染まれるかどうかが評価の分かれ目かもしれない。2019/12/29
kei
25
語り手の初恋、スワンの娘・ジルベルトとの恋についてあれこれと語り手が考えを巡らせるが、ジルベルト自身の印象は薄く、スワン一家、特に第一部のタイトル「スワン夫人のまわりで」が最初から最後まで通底している印象の第3巻。話の筋としては単純なのに、その情景も空気も心情も丸ごと作品に閉じ込められている。流麗な文体の中に語り手の若さが出ていて(憧れの作家に会いその風貌に落胆したり、相続した壺を売って「毎日ジルベルトに花を贈ることができる」とウキウキする)クスっとしたり、うろたえたりしました。恋は怖い。2022/05/18