内容説明
泥棒で同性愛者だった青年ジュネは、獄中で書いたこの処女作で20世紀最大の“怪物”作家となった。自由奔放な創作方法、超絶技巧の比喩を駆使して都市の最底辺をさまよう犯罪者や同性愛者を徹底的に描写し、卑劣を崇高に、悪を聖性に変えた、文学史上最も過激な小説。
著者等紹介
ジュネ,ジャン[ジュネ,ジャン][Genet,Jean]
1910‐1986。フランスの作家、詩人。1910年パリに生まれる。未婚の母親はガブリエル・ジュネ、父親は不詳。生後数カ月で母親に捨てられ里親のもとで育つ。10歳のころから始まった盗癖で何度も施設に入れられ、脱走と逮補を繰り返す。18歳で軍隊に入るが25歳で脱走、ヨーロッパを放浪する。’37年、パリに戻るが、またも窃盗そして逮捕を繰り返す。’42年、刑務所内で『花のノートルダム』を書き始め、’43年に出会ったジャン・コクトーがその才能に驚き、翌’44年、同作が文芸誌に掲載されデビュー
中条省平[チュウジョウショウヘイ]
1954年生まれ。学習院大学教授。仏文学研究のほか、映画・文学・マンガ・ジャズ評論など、多方面で旺盛な活動を展開している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
84
刺激的で過激な描写に満ちていました。男娼デヴィーヌとその情夫・ミニョン、ミニョンが拾ってきた美少年・花のノートルダムの愛憎劇が描かれます。ミニョンは途中で姿を消すので実質的にはデヴィーヌと花のノートルダムの物語だと思いました。2人の関係の変化を軸に、社会の底辺で生きる人々を赤裸々に描いた風俗小説とも言えるでしょう。嫌悪感を抱くほどの同性愛の世界を描いていながらも、デヴィーヌの崇高さが際立っているのが印象的です。卑劣を崇高に、悪を聖性に変えた作品。とてつもない奇書であり、感動作でもありました。2015/08/25
夜間飛行
70
ジュネを読むと何となく人間が罪と快楽によって磔にされている感じがする。人は与えられた生と性を受け入れるしかないという意味で閉ざされた存在だ。しかしジュネの悪党への愛は、その閉鎖性を逆手に取る。入れ歯を冠にするディヴィーヌや、マネキン殺しから真の殺人を自白して刑死するノートルダムなど、贋物である事を徹底する彼らによって、本物は空っぽとなる。何もない闇の中でそっと芽生えた罪と快楽こそが人を解放するのだ。比喩や隠語の織りなす言葉の宇宙…つまりジュネの作る詩空間の中で、磔にされた人間は真の自由を取り戻すのである。2014/05/17
優希
65
刺激と過酷さを感じました。男娼デヴィーヌ、情婦・ミニョン、ミニョンが拾ってきた美少年・花のノートルダムの愛憎劇が描かれます。犯罪者や同性愛者を徹底的に描いたのみならず、社会の底辺で生きる人々を赤裸々に告白した作品と言ってもいいと思いました。嫌悪感を抱くような同性愛の世界が繰り広げられても、何処か美しさを見る自分がいます。卑劣を崇高に、悪を聖性に変化させた過激な作品と言えるでしょう。2021/11/08
HANA
46
フランスの男娼の話だが、イメージが鮮烈。そこに登場人物の運命の予告や其々の過去、作者の語り等が紛れ込み、読み始めは少々混乱する。メタという言葉がまだなかった頃に発表されたもので、当時この構造はどのような印象を与えたのだろうか。それでも読んでいるうちに奔放な性の反乱が段々と神々しい儀式に変わっていく。実際文中でもディヴィーヌは聖女と化していくし。読んでいるとまるで泥の中から蓮の花が咲くように、泥土が金剛石に変わっていくような感覚、性行為が高貴な宗教的儀式に、犯罪がもっとも純粋な行為に成り代わっていく。2013/03/31
ω
29
ぐはっ。。。疲れた…… おかまさんたちの生涯をひたすら美しく崇高、神秘的に書き綴った処女作。「花のノートルダム」を、うまく創り上げられなかった私の読み技のなさのせいかな? 美しいし、ジュネ大好きなんですけど、今は疲労困憊。。。2019/02/19