内容説明
船乗りマーロウはかつて、象牙交易で絶大な権力を握る人物クルツを救出するため、アフリカの奥地へ河を遡る旅に出た。募るクルツへの興味、森に潜む黒人たちとの遭遇、底知れぬ力を秘め沈黙する密林。ついに対面したクルツの最期の言葉と、そこでマーロウが発見した真実とは。
著者等紹介
コンラッド,ジョゼフ[コンラッド,ジョゼフ][Conrad,Joseph]
1857‐1924。ロシア占領下のポーランドで没落貴族の家に生まれる。父が独立運動に関与したため一家は流刑、両親を早くに亡くす。16歳で船乗りをめざし、仏英の商船で世界各地を航海する。このときの見聞が、後の創作活動に大きな影響を及ぼす。ポーランド語、フランス語を操り、小説は英語で書いた。1886年イギリスに帰化。1895年『オルメイヤーの阿房宮』で文壇にデビュー。1924年心臓発作のため自宅にて死去
黒原敏行[クロハラトシユキ]
1957年生まれ。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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Tsuno本棚
感想・レビュー
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遥かなる想い
298
奇妙な話だが、本書を読みながら、 もうずいぶん長い間 船に乗ってないな、と 感じていた。1899年に 書かれたこの本、船で闇の奥に 突き進むイメージが強い。 白人から見たアフリカは 例えば『地獄の黙示録』にも 似て不気味そのものだった のだろうか。 マーロウの独白が延々と 続く本書のスタイルは苦手 だが、物語が伝える時代背景は 「闇」をさ迷う雰囲気であり、この意味では本書は うまく書けているのかも しれない。2015/12/13
のっち♬
209
船員だった若き著者がコンゴ自由国で見たのは象牙収奪のための搾取と大虐殺。未知の大陸の内へ進むにつれ、人間の心の奥に潜む闇の深淵が迫り来る。欲望や好奇心に際限がない人間の性を束ねるマーロウの語りは作品に多義的含意を与える点で著者は早速味を占めたようだ。印象主義や象徴主義の修辞表現や開かれた形の反伝統的な幕切れなど「何でもあり」を試す実験意欲。文明人と野蛮人を相対視するスタンスの萌芽が既に見られ、それぞれ包容的視線が注がれている。文明の恐ろしい正体と誰しもがその一部である実感が作家コンラッドを生み出したのだ。2022/12/25
こーた
208
電車で読んでいてしばしば乗り過ごしそうになり、慌てて顔を上げるということが何度もあった。書かれていることの半分も理解していないのに、本を開けば、すっと文章に入りこんでしまう。もう少しさきまで読んでいたい、ここはまだ目的地じゃないんだ、電車は降りずにこのままどこかへいってしまおうか。進めば進むほど視界は悪くなって、周囲が闇に包まれていく感覚が、怖ろしくも心地いい。どこまでいっても暗いまま、気づけば闇の奥にとりこまれて、この奇妙な小説のすっかり虜になっている。2018/11/21
ケイ
153
「マザリング・サンデー」(グレアム・スウィフト作)で触れられていたマーロウ三部作の二作目。アフリカの沿岸の川下から舟で上っていく奥地。そこで目にする使い捨てにされる現地の人々。彼らは、鞭で打たれ、鎖で繋がれ、動けなくなったら捨てられる。本国では恵まれない生活をおくる男は、目指した先で遭遇した得体の知れない恐ろしさが闇の奥で鼓動をうつのを見た。本国に支配されまいと自らの信念で作り上げた体制も抱える捻れや矛盾。その矛盾の崩壊を見届けたマーロウをも覆うどす黒い霧が見えるようだ。2019/09/05
ケイ
150
原題「Heart of the Darkness」最初はマーロウを第三者的に見ていたのが、彼の語りになると、一緒にアフリカの海岸から川を上って、どんどん上流へと分け入るにつれ、、自分の体験のようにその不気味さが迫ってくる。そして、潮の高さへの言及で現実に引き戻される船員たちと同じく、読み手も我にかえる。アフリカの奥地というのは、まさに闇だったのだろう。闇とは、未開化であり、夜の真の暗さであり、肌の黒い人々の心の中でもあり、その闇の恐ろしさを、予備知識のなかったマーロウは、現地でまさに肌で感じたのだ。2015/12/11