内容説明
「先史時代の鳥類」のような奇怪な骨を見つけたのは、廃墟と化した大戦後のベルリンのアパートの一室…。表題作「天使の蝶」には、化学者でもあったプリーモ・レーヴィの世界観が凝縮されている。人間の夢と悪夢が交錯する、本邦初訳を多数収録した傑作短編集。化学、マシン、そして人間の神秘をつづった珠玉の15編。
著者等紹介
レーヴィ,プリーモ[レーヴィ,プリーモ][Levi,Primo]
1919‐1987。イタリアの化学者・作家。トリノのユダヤ系の家庭に生まれる。1943年、ドイツ軍のトリノ占領に伴いレジスタンスに参加するが、捕らえられアウシュヴィッツ強制収容所に送られる。1945年、ソ連軍により解放され、奇跡の生還を果たす。帰国後、化学塗料工場に勤めながら、自らの体験を書いた『アウシュヴィッツは終わらない』を刊行し、高い評価を得る。その後、独特の視座で現代社会や人間を諷刺した幻想小説なども発表。1979年には、『星型レンチ』でストレーガ賞を受賞する
関口英子[セキグチエイコ]
埼玉県生まれ。旧大阪外国語大学イタリア語学科卒業。翻訳家。児童書から映画字幕までイタリア語の翻訳を幅広く手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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takaichiro
109
面白かった。良質な短編集。化学者でもあるレーヴィの知性がふんだんに生かされた内容。AIやクローン人間の登場やその扱い・活用にアタフタする人間の様子など、現代作品にも通用するコミカルなシーンが沢山出てきます。話の進め方が星新一のショートショートにも似ている様に思え、楽しくあっという間に読み終えました。テクノロジーは飛躍的な生産能力拡大を実現してきましたが、これからは社会生活や人間の感情に大きな影響を与える時代に入ります。日本ではイタリア作家の翻訳作品がそう多くは出ていませんが、意識的に探してみようと思う。2019/12/29
nobi
90
悪戯っぽくウィンクしながらSFの世界に人情と生理と現代生活あるあるを織り交ぜてる感じ。風邪引く複製妻、目覚めてすぐのステーキは胸につかえる冷凍美女、『創世記 第六日』<ヒト>の構造議論する委員会…。原子配列コピー機《ミメーシン》モノ、昆虫との交渉モノ、感覚体験ヘッドギア《トレック》モノ…。化学知識駆使した斬新な発想と次々展開する事例は絶好調。表題作と一部を除いてユダヤ系作家が逃れられなかった過酷な体験の記憶は感じ取れない。むしろ重い記憶から自らを解放して天真爛漫に飛翔?レーヴィ未来劇場は痛快な出し物一杯。2017/11/12
青蓮
86
プリーモは化学者でもあったせいか、作品にもそれが色濃く反映されている。特に発明機械を売る会社に勤めるシンプソン氏が登場するシリーズ作品は、これが50年前に書かれたとは思えない程の完成度。3Dプリンター、バーチャルリアリティ、人工知能等、現代において真新しい技術・製品を既に考えてた事に驚くばかりだ。プリーモが実現したそれ等を目の当たりにしたら、どんな反応をするのか興味がある。お気に入りは冷凍保存によって長年生きてきた女を描く「眠れる冷蔵庫の美女」。これもいつか実現する時がやってくるのだろうか。面白かった。2017/07/11
藤月はな(灯れ松明の火)
44
特に戯曲調の「詩歌作成機」はカレル・チャペックの戯曲、「ロボット」でも論じられる行き過ぎた利便性がユーモラスに語られていて好きです。「眠れる冷蔵庫の美女」は「夏への扉」を読んでいたらまた、違った感想になるのかな。「転換剤」は苦痛が快楽へと逆転する話でタナトスの原理が自傷行為や自罰行為でこうなったらと思うと怖すぎます。最後がこの連作短編集で重要な狂言回し役を仰せつかったNATCA社のシンプソンの末路についてという〆もおあとがよろしいようで。2013/03/08
けろり
39
蒼月海里さんの、著作の中で紹介されていたので手に取ってみました。 読むのに時間がかかりましたが、読み終えることができほっとしています。化学者でもある著者だからこそ描ける作品なのかなと思います。何処までがフィクションなのか分からなくなりましたが、もしかしたらこの本の中にある事が現実になる日もそう遠いことではないのかもしれません…2019/01/12