内容説明
14歳のポールは、憧れの生徒ダルジュロスの投げた雪玉で負傷し、友人のジェラールに部屋まで送られる。そこはポールと姉エリザベートの「ふたりだけの部屋」だった。そしてダルジュロスにそっくりの少女、アガートの登場。愛するがゆえに傷つけ合う4人の交友が始まった。
著者等紹介
コクトー,ジャン[コクトー,ジャン][Cocteau,Jean]
1889‐1963。フランスの詩人・小説家・劇作家・映画作家。パリ近郊の富裕な家に生まれ、早くから社交界に出入りし、多くの芸術家と親交を結ぶ。特にラディゲとの交友は芸術活動を刺激し、またその死は阿片中毒に陥るほどの重大な影響を与えた。生涯にわたってジャンルの枠を超えた活動を繰り広げながら、その根源は常に「詩」にあった
中条省平[チュウジョウショウヘイ]
1954年生まれ。学習院大学教授。仏文学研究のほか、映画・文学・マンガ・ジャズ評論など、多方面で旺盛な活動を展開している
中条志穂[チュウジョウシホ]
1970年生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
158
原語も含め、五回目の再読。読書会に向けて。毒親という言葉があるが、エリザベートは一種の毒姉か。それは、閉鎖された空間で、増殖する。LGBT的な視点から今回は読んでみた。読み解こう、理解しようとは思うのだが、この小説を書く直前にコクトーがその死に衝撃を受けたラディゲの作品を読んだ時のようなヒリヒリする高揚感に欠ける。私にとってコクトーは、その作品よりも彼の人物そのものが興味深い。2018/05/24
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
132
行き場のない愛は互いの心を削りながら破局に向かって進むしかなかった。【子供部屋】で暮らす16歳のエリザベートと14歳のポール。大人たちは去り、やがてジュラールとアガートという二人の“子供”がやってきて、合わせて4人の孤児が集まった。2人の時は歪んでいるなりに平穏だった生活に変化が訪れる。心の中で静かに育まれてきた狂気は嫉妬と憎しみというエネルギーを得るや、生贄を求めて暴れだす。親友ラディゲの死の悲しみから阿片に溺れていったコクトーが、入院治療中に描いた物語。作者自身による約60点のイラストが彩りを添える。2015/09/13
優希
114
無垢でありながら残虐な物語でした。硝子のような繊細で透明感の中に孕んでいる狂気。子供だけの密接した空間の中で、遊戯の如く肉体と精神が溶け合うのは甘い蜜であり、麻薬でもあると思います。狂っているのに子供たちは夢の世界を漂っているようでした。エリザベートとポールの姉弟の近親相姦以上の魂の依存が破滅へと堕ちて行き、悲劇の愛として昇華するのには詩的な美しさを感じます。その美しさは崇高ですらありました。純粋無垢だからこそ生まれるねじれが恐るべきと言われる所以なのでしょうか。2015/09/05
扉のこちら側
107
初読。2015年1027冊め。【53/G1000】昔の小説を読んでよく思うのは、これほど説明が少なくても許されたのはなぜかということ。姉弟の母や弟自身の病気について(なんの病気なんだか)や、姉弟がこれほど執着しあう背景などが明確には説明されないため推測するしかない。姉弟ら4人とも十代だが当時は結婚するような年齢で、しかしやっぱり「子供たち」としか評せない精神的な未熟さ。さっと登場して去っていったダルジュロスが妙に印象的。あとコクトー自身の絵もジョジョっぽくてインパクトがある。2015/08/28
風眠
101
子供部屋が彼らのすべて。成熟し大人になることを徹底的に拒み、それでもどうしようもなく大人になっていくことで破綻が生じる。子供部屋で夜ごと繰り広げられた芝居は、近親相姦的な姉弟と、その友人たちとを、外の世界から切り離した秘密の空間。破天荒だけれど、繊細で寂しい子どもたち。理論なんて無くて、だからこそ悲劇的なまでに激しい愛の在り方は、子どもたちだけのものであって、大人が立ち入ってはならないものなのだとも思う。これはたぶん、感じる物語だ。阿片と闘いながら17日間でこの物語を書き上げたコクトー自身が、ここにいる。2014/08/05