内容説明
「正気の沙汰とは思えない奇妙きてれつな出来事、グロテスクな人物、爆発する哄笑、瑣末な細部への執拗なこだわりと幻想的ヴィジョンのごったまぜ」(解説より)。増殖する妄想と虚言の世界を新しい感覚で訳出した、ゴーゴリの代表作「鼻」、「外套」、「査察官」の3篇。
著者等紹介
ゴーゴリ,ニコライ・ワシーリエヴィチ[ゴーゴリ,ニコライ・ワシーリエヴィチ][Гоголь,Н.В]
1809‐1852。ウクライナ出身のロシア作家。幻想と妄想に彩られた現実をグロテスクに描き出した。『死せる魂』『ネフスキー大通り』『肖像画』『狂人日記』の小説のほか、『結婚』などの戯曲がある
浦雅春[ウラマサハル]
1948年生まれ。東京大学教授。チェーホフを中心としたロシア文学、ロシア・アヴァンギャルド芸術の研究を手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
60
面白かったです。こう出て良いのかと思うことの連続ですが、それらがそれぞれ笑えるのです。皮肉の効いた物語を楽しみました。2022/12/25
めしいらず
58
著者の代表作3編。相手の肩書きや階級によって威張ったりへつらったり態度をコロコロ変えるのに忙しい人たちの滑稽譚。頓狂で味わい深い「鼻」よりも、まるでコントを観ているような「査察官」よりも、可笑しみの中にも悲哀が滲む「外套」がいい。他人と自分を比較して尊大だったり媚びたりする同僚たちと違い主人公は慎ましい。与えられた仕事に没頭しそのことに喜びを感じている。彼のシンプルな人生観をかき乱すのは周りの者たちだ。一瞬の喜悦からやり切れぬ悲憤へ向かう彼の人生の不条理劇。所詮は人生そんなもの。小さな喜びすら奪っていく。2020/09/22
燃えつきた棒
58
『外套』 アカーキー・アカーキエヴィチとは僕だ。 それは、ちょうど「棒になった男」が僕であり、「無能の人」が僕であったのと同じように。 彼が失った「外套」とは果たして何だったのか? それは、誇りだったのだろうか? それとも希望だったのだろうか? ゴーゴリは、この作品において、生の一つの典型を見事に描ききっている。 数多のアカーキー・アカーキエビッチたちの生は、ゴーゴリによって見事に歴史に刻み込まれたのだ。 2017/08/30
マエダ
53
小説よりもゴーゴリの生涯が面白い。2019/07/08
翔亀
50
ドストエフスキーの「我々はみんなゴーゴリの『外套』から生まれた」という発言は出典が明らかではないそうだが、黄金のロシア文学の幕開けを飾る作品。人間と社会の不条理というか、外面的な<滑稽さ>に対する乾いた哄笑が渦巻き、カフカの「城」の官僚制の不気味さを喜劇に仕立て上げた感じ。「外套」では単なる服装、「査察官」では査察官という地位、こういう外面によってどれだけ人間が惑わされ変わりうるか、を冷やかに描く。でも読後感がよいのは、惑わされる人間を否定しない暖かな眼があるからだろう。明るい諦念による人生一口噺だ。2014/10/13