内容説明
編集者の田中聡とライター・さとうゆうは幼なじみ。聡がファンだった小説家・小川満里花との仕事をきっかけに交流が復活する。三人と満里花の飼い犬・イエケとの穏やかな日々。しかし、突如イエケがゆうに襲いかかる。一年後、東京でSARSが流行。陰には一頭の犬の存在が。恋、官能、背徳、壮大なミステリー―打海文三が遺した「最後の傑作」がついに文庫化。
著者等紹介
打海文三[ウチウミブンゾウ]
1948年生まれ。早稲田大学政経学部卒。’93年、『灰姫―鏡の国のスパイ』が第13回横溝正史賞優秀作となる。翌年発表した『時には懺悔を』が各方面で絶賛される。『裸者と裸者』『愚者と愚者』は少年少女の一大叙事詩シリーズとして多くのファンを惹きつける。2007年10月9日、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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piro
33
出版社に勤める聡、幼馴染でライターのゆう、小説家の満里花の奇妙な三角関係を描いた物語。甘美で倒錯的な性描写、騒乱や直視できないおぞましい光景が織り交ぜられ、普段読んだとしても衝撃的ですが、コロナ禍の今、一段と恐怖を感じる物語でした。東京SARSの感染拡大に怯える中で繰り広げられるゆうと聡の追跡劇は打海さんらしいハードボイルドサスペンス。全編を通じて暴力的で強烈な物語です。何が現実だったのか…混濁した記憶に翻弄される聡の弱々しさが自分の事の様。期せずして今読めた事は運命かなぁ。打海文三を堪能した一冊でした。2020/12/29
まつじん
11
肝心のミステリの部分がすっかり吹っ飛んでしまったのは背徳的な官能シーンの描写のせいでしょうか。なんかもっと続きが読みたくなるような作品ですが、作者のご冥福をお祈りいたします。2010/11/06
Katsuto Yoshinaga
6
2008年の作品ながら今の日本の状況や話題と妙に符合している点に驚く。本書の東京SARS(新型コロナウィルス)、疫病流行における在留外国人に関する諸事情(武漢発生とそれに起因する流言)、チラリと描かれる動物との愛と獣姦(聖なるズウ)等々。著者の想像力あるいは幻視の力はさすがというべきか。ただ、歯科技師の女性やタキシード着た双子の映画監督とプロデューサーとか、強すぎる犬とか、ラストとか、私はちょっと理解できていない。好きな作家ながら、この人は訳がわからないところも多分にあるんだよなぁ2020/02/29
じゅむろりん
6
「応化クロニクル」読了後に読んだ打海作品がこれ。読んでいて「応化~」を彷彿とさせる”かっこいい文体”と元気で妖しげな女性にはまっていきます。打海作品の女性は妖艶でミステリアスですよね。最後には,どこまでが現実でどこから幻想なのか分からなくなるのですが,最後まで飽きさせない筆致はすごいと思います。池上冬樹氏の解説を読んで他の作品も読んでみようと思いました・・・。2013/12/30
文庫フリーク@灯れ松明の火
5
結末に唖然。幻想小説だったのか?解説を読むが、どうにも尻の座りが悪い。自分の中で「裸者と裸者」「愚者と愚者」のイメージが強すぎたのも事実。後半は打海ワールドに一気に引き込まれた。歪んだ都心ビル群の表紙が作品イメージと重なる。絶筆・未完となった「覇者と覇者」は必ず読みたい、と思う。打海文三氏の早すぎる逝去を悼む。2010/04/15