内容説明
法医学と人間心理の誤差に着目して、真犯人を追及する佳編「誤差」。ほかに、古美術品の鑑識眼を使って、アカデミズムの虚飾を剥ぎ、人の真贋を暴こうとした男の凄絶な復讐計画と、その挫折を描いた「真贋の森」など、人間存在の深奥を見据えた著者の冷厳な視線が生んだ傑作七編。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年北九州市生まれ。給仕、印刷工などの職業を経て、朝日新聞西部本社に入社。懸賞小説に応募入選した「西郷札」が直木賞候補となり、’53年に「或る『小倉日記』伝」で、芥川賞を受賞。’58年に刊行された『点と線』は、推理小説界に「社会派」の新風を呼び、空前の松本清張ブームを招来した。ミステリーから、歴史時代小説、そして、古代史、近現代史の論考など、その旺盛な執筆活動は多岐にわたり、生涯を第一線の作家として送った。’92年に死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
36
この中には現代もの6編、時代もの1編が収められています。「真贋の森」は中編ですが、清張の鬱屈した気持ちが書かせたのではないかという気がします。また「発作」などはひとの心の動きをうまく描いてくれています。「千利休」は切腹までの利休の気持ちの動きをうまく描いています。2014/12/30
ソーダポップ
32
この短編全集9には、画家や画商を主人公にしたり、美術界の軋轢をテーマにした「装飾評伝」「真贋の森」そして「千利休」松本清張の美術への関心を反映した短編に注目したい。割烹料理屋を舞台にした「氷雨」は女心の機敏が印象に残った。サラリーマンの苛立ちが電車の中での事件へと収束する「発作」は、松本作品のホラーといえる。気怠い展開とラストの旋律とのコンストラストが巧みでした。小都市の市政の内情を捉えた「紙の牙」法医学の隙をついた「誤差」は、いろいろな意味で人の死が単純でない事を物語っている、どれも俊逸な短編集でした。2022/12/11
とろとろ
25
清張短編全集第9巻。7つの短編集。本人の解説によると、ちょっとしたきっかけやヒントから話を書いていると、いとも簡単そうに解説しているが、どれも常人では思いつかない。物語は淡々と書かれているように見えるが、そう思う事こそが見事な話の展開なのであろう。最後の「千利休」は、芥川の小説を彷彿とさせるやうだった。2015/11/26
団塊シニア
18
人間心理を追求した短編集です。昭和の時代の作品であるが新鮮です。表題作「誤差」「氷雨」「紙の牙」予想できない展開が面白い。2012/08/06
ランラン
7
毎回そうであるが短編ならではの面白さがあり清張の神髄をみることができる。2021/04/30