内容説明
元作家・皆木旅人が謎の死を遂げた。皆木は、寡作ながら作家として高い評価を得ていたが、二十余年前、突如文壇を去っていた。皆木の遠戚・春田大三は、海外旅行から帰国後、初めてその死を知った。遺書が残されてはいたが、どうしても皆木の死が自殺とは思えない春田は、その死の謎を追いはじめた。人類普遍のテーマに挑む、文学ミステリー、現代人必読の書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
12
忘れられた作家の自殺について、過去のテクストと関係者の証言から編み直す物語。しかし主人公がすでに死によって失われた物語はいくつもの答え、可能性を保持したまま、グルグルと廻り回る。仔細な記録を読めば読むほど、読解という迷宮に入り込む。大西巨人は本書で、己の死を描いた。自分が仮に自殺した場合、世間はそれをどううけとめるのかを想像しながら、本作を書いた。記録を残せば、誰かがそれをよみ、物語が生まれる。そんな願望を感じさせる一冊であった。自殺か他殺かが問題なのではない。それを問うこと探すことで、物語はうまれるのだ2014/03/17
メルコ
6
20数年まえ突如文壇を去った元作家・皆木が自殺を遂げた。遠縁にあたる春田は死の真相を探るべく皆木の過去をさかのぼっていく…。これまで著者の短編や評論を読んだことはあったが、長編は初めて。推理小説仕立てで謎の死を遂げた元作家の真意を求めて、出版界の裏側を探っていく。イプセンの「幽霊」を引き合いに出して、著者が提示しようとしたものは人間の尊厳ある死について。独自の思考回路で描かれる世界観は独特なもので、とても硬質な文体である。内外様々な作家の文章が引用されているが、個人的に思い入れのあるイプセンの「幽霊」が↓2024/02/01
モリータ
6
◆単行本1995年刊。長らくの積読。井上光晴との関係に興味を持ち1992年刊の「モデル小説」『三位一体の神話』をメルカリで頼んでおいて後、こちらを先に読む。と、ここにも「伊阿胡右」が出て来たのだった。◆言わんとすることは概ね理解•同意できたが、もっと直截に『文選』を読まないと。2020/08/17
渋野辺
1
『神聖喜劇』など押せてなければならない著作を読まず、初めて大西巨人に触れた作品だった。この作者の作品は全部読まなければならないと感じた。2015/04/19