出版社内容情報
荒れ狂う海と未知の島、そして異国の民。ため息すら、一瞬たりとも許されない――船大工を志すものの挫折し、水夫に鞍替えした和久郎は、屈託を抱えながらも廻船業に従事している。ある航海の折、船が難破してしまう。船乗りたちは大海原の真っ只中に漂う他ない。生還は絶望的な状況。だがそれは和久郎たちにとって、試練の始まりに過ぎなかった……。史実に残る海難事故を元に、直木賞作家が圧倒的迫力で描く海洋歴史冒険小説。
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ミスランディア本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
234
漂流記小説は極限状態をいかに生き抜くかがストーリーの中心となる。水や食料の乏しい海上から奇跡的に陸へと辿り着くが、そこで生き抜いて故郷へ戻る方策を日々考え続けねばならないのだ。バタン島へ漂着した和久郎たちは考えるのを放棄するまで追い詰められるが、唯一ポジティブな性格を崩さなかった門平に救われる場面は集団で生きる手がかりを示す。板子一枚下は地獄の船乗りにとって信仰が絶対的なものであったり、漂流民を冷酷に扱う鎖国下の政治面も抜かりなく描かれており、単純な冒険物でない歴史的背景から展開するドラマが成立している。2024/07/31
いつでも母さん
170
やっぱり好きだわ西條奈加!漂流記かぁ・・思った私をグ―で殴ってやりたい。荒れる海に私も翻弄され共に漂った気分だった。島影が見えた時、命冥加を感じたはず。だが、此処は何処?生きて還ることは出来るのか?いや、皆で還るんだ!どんどん思いは強くなる。辿り着いたのはバタン島。異国での暮らしは命を、意思を試されているかのようだった。水夫・和久郎の成長譚でもあった本作、15名の男たちのうち彼の地で散った3人と自ら残った1人を思うと辛いし切ない。それでもよく還ったなぁ。想いは人を強くする。 2024/07/19
のぶ
162
いつもの西條さんとは毛色の変わった作品だった。江戸時代前期の家綱の時代に、実際に起きた、海難事故をモデルにした物語のようだが、西條さんの味付けで面白い冒険小説に仕上がっている。主人公の和久郎は知多半島で、船大工を志すものの挫折し、水夫に鞍替えし屈託を抱えながらも廻船業に従事している。ある航海の際に難破し15人で漂流の果てにバタン島という南洋の島に行き着く。ここから先はロビンソン漂流記のような雰囲気も漂わせてくる。作品全体がサバイバル感に包まれているが、それほど悲壮感はない。たまにはこんな話も良いですね。2024/07/17
タイ子
161
読む前にネットで調べると本作の原本がある事を知る。すごいです、何を書いてあるのやら漢字が多すぎて読めません。やはり、ここは西條さんの歴史冒険小説として楽しませていただきました。今から350年ほど前の実話に基づいて展開する物語。15人の乗組員を乗せた船が尾張から江戸に向けて出帆。帰途、嵐に見舞われ帆柱を切り倒し、辿り着いた謎の島。見た事のない風貌の住民。言葉は不明、運命を託すにはあまりにも過酷な状況。大切な人が1人減り、また1人。生還のため立ち上がる乗員たち。鎖国の時代ゆえ彼らに与えられた未来が哀しすぎる。2024/09/21
モルク
147
船頭以下15人で江戸から尾張に向かう船。船大工を目指すも挫折し水夫となった和久郎もその一人だった。途中船が難破、漂流し漸くたどり着いたバタン島、しかしそこで新な苦難が待ち受けていた。島民の下、奴隷のような生活の中リーダーの二人が突然消える。そしてこの島には年寄がいない…帰国を念じ和久郎の大活躍のもと遂にその日は来た…先だった3人の思いを胸に船は故国に向かう…。涙が何度も出る。サバイバルものはとても好き。鳥島で一人で13年生活した長平の話も出てきて吉村昭「漂流」を再読したくなった。2024/10/20