内容説明
三島由紀夫は昭和四十五年十一月二十五日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた。その死の当日、遺作となった小説『豊饒の海』の第四巻『天人五衰』の最終原稿が、編集者に渡された。ところが、「創作ノート」と呼ばれる三島のノートには、完成作とは大きく異なる内容の最終巻のプランが検討されていた。近年、調査が進んだ「創作ノート」と、『豊饒の海』の重要なテーマである仏教の唯識思想に基づいて、三島が検討していた幻の第四巻の作品世界を仮構し、そこから三島の自死の意味と、三島文学が書かれ、かつ読まれた場である戦後日本の時空間について再考する意欲作。
目次
第1章 幸魂の小説―『豊饒の海』の構想
第2章 唯識とは何か
第3章 救済の理念としての輪廻
第4章 世界は存在する!
第5章 光明の空に赴く
第6章 虚無と救済の闘争
第7章 神々の黄昏
第8章 五つの観点から―「第四巻plan」ノート再読
第9章 もう一つの『豊饒の海』
第10章 虚無の極北の小説
エピローグ―さらに、もう一つの『豊饒の海』
著者等紹介
井上隆史[イノウエタカシ]
1963年横浜市生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院博士課程中退。東京大学助手を経て、白百合女子大学教授。白百合女子大学言語・文学研究センター所長。山中湖文学の森三島由紀夫文学館研究員。専門は日本近代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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月をみるもの
11
残りすくない連休中に4冊も読めへんわ!、、ということで、本編を読む前に解説本を手にとってしまった愚か者です。「あんな終わり方を、おれは認めんぞ!」という状態から、徐々に受容へと変わっていくプロセスが、かつてのエヴァの解説本(の一部)を見るようであった。。 2019/05/05
belle
8
三島由紀夫の小説の中では「春の雪」から始まる『豊饒の海』四部作が好きだ。三島が遺した創作ノートをつぶさに検討し、推理を深めるのを面白く読んだ。唯識と輪廻。虚無。その先を考える。近い日にまた『豊饒の海』を読む予感がする。2021/03/24
非実在の構想
6
三島由紀夫が己の実存についての問題意識と時代の空気によって豊饒の海を書いていたことを知る。唯識も実存についての問題と結び付いていたためであり信仰を有していたのではない。三島はなんで成唯識論ではなく摂大乗論に依ったのだろうか。有相と無相の差異を気にした節もなさそうだし。2020/01/05
イタロー
2
紹介されている仏教書籍の多くは、国立国会図書館遠隔サービスで読めるようになっている。ありがたや、ありがたや。2022/06/06
uz
2
三島由紀夫が残したノートには豊穣の海のストーリーについて別の案があり、それを筆者が再構成しようと試みるもの。 ただ、自分としては、豊穣の海はあの結末じゃなければダメだと思う。2013/01/26