出版社内容情報
子どもの絵本というと多く動物が登場する。なぜこれほど動物に関心をもつのか。
本書では動物絵本について考えることで、動物との出会いを必要とする人間とは何かを問うていく。
人間化と脱人間化、この往還を可能にするのが動物絵本だ。動物との差異の強調は人間化を、同質性は脱人間化(野生)を示す。どちらの側面も人間が人間であるために必要不可欠だ。それは擬人法のレベル(二足歩行、着衣、表情etc.)、または逆擬人法(宮澤賢治)で表現される。陰陽五行に則る西遊記、桃太郎の世界と、キリスト教的動物観、
内容説明
私たちはなぜ動物絵本を読むのだろうか?擬人法を手がかりに、動物と人間の根源的関係を探る知の冒険旅行。
目次
1 動物絵本は今日の動物‐人間学である―動物絵本とは何か
2 擬人法と逆擬人法をめぐる冒険―動物絵本の生の技法
3 ファンタジーとノンセンスの力―動物絵本の文法
4 動物と出会うことと動物に変わること―動物絵本の類型
5 寓意でもなくシンボルでもなく―近代動物絵本の誕生
6 ノスタルジーを超えて―子どもと大人が生きる動物絵本
著者等紹介
矢野智司[ヤノサトジ]
1954年生まれ。1981年京都大学教育学研究科博士課程中退。現在、京都大学大学院教育学研究科教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
313
タイトルこそ軽やかだが、内実はほとんど学術書に近い(巻末の参考文献もそれを如実に示している)。著者の提唱する「動物ー人間学」、それは換言すれば「人間学」(anthropology)すなわち人間とは何かを問うものである。内容は多岐にわたるが、擬人法や、ファンタジーなどをキー・コードに動物絵本の持つ意味を解明していこうとするものである。本書でとりわけ特徴的なのは「逆擬人法」ここでいう逆擬人法とは、動物を人間の側に引き寄せる(通常の擬人法)のではなく、「人間の方が他の草木鳥獣あるいは鉱物といったすべての⇒2024/01/04
ハチアカデミー
14
B 絵本から読み解く動物ー人間学。なぜ絵本において、動物が擬人化され、また人間と交流する物語が生み出されるのかを巡る探究は、動物をモチーフとした神話・物語が古代から脈々と残され、読まれてきたのかを巡る探究へとつながる。適度に博物学的教育もしながら、自然と人間を介在するものとして描かれる動物たちの物語は、人間を人間たらしめているものが何なのかを問いかける。「絵本とは、子どもへの贈与である」という言葉は、すなわち物語そのものが、有為性に回収されない贈与であることを示唆している。文学論としても刺激的な一冊。2012/08/02
シルク
11
うさこちゃんやらぐりとぐらやら、「動物が主人公」の絵本っていくらでもある。こどもの時を思い出してみると、お気に入りの絵本のうちの何冊かは、動物が主人公の絵本――動物絵本――じゃね? けどさ~、考えてみたら不思議だね。例えばうさこちゃんを思い浮かべて欲しい。動物を二本足で立たせて、お洋服着せて、おうちにお父さん、お母さんと住まわせ、テーブルについて食事をし……人間がそうするのと同じように描く。なんでそんなことをするんやろ? 動物絵本は何をしようとしているのか……? てな本。面白かったからいつか再読するべ。2015/05/06
kana0202
3
動物絵本の物語論といえるだろう。野田研一のいうように、逆擬人法というアイディアが非常におもしろい。枠組みの提示とその当てはめに終始している感じはあるが、興味深いところは多々ある。絵本は声で理解されるからリズムが大事なことや、キャラのデザインが簡単になればなるほど人間に近づくこと。個としての動物と群としての動物。動物園、博物学と絵本との関係性。深めていくべきテーマが数多く示されている。2021/08/09
ぽっか
3
「どうして子どもの絵本には動物がたくさん出てくるんだろう」という素朴な疑問から、この本を手に取りました。その答えをひとことでいうなら、動物が人間にとって最も身近な他者であるからということになるでしょう。人間は、異質な存在である動物と比較することで人間とは何かを学びます。また、動物との交感によって、人間中心主義の社会から外れ、新たな自己変容に開かれます。このような「人間化」と「脱人間化」を子どもに、しかも安全な形でもたらすのが動物絵本なのだそうです。2015/04/18