出版社内容情報
「ミュオンを通して世界が見える」
本書は,物質世界を探索する手法の1つであるミュオンスピン回転法(μSR)を初学者にわかりやすく紹介することを目的として執筆しました。μSRは核磁気共鳴や電子スピン共鳴と類似の手法で,その研究対象もこれら2つの手法に劣らず大変幅広いものです。そのため,英語のものも含め,従来の類書ではどちらかといえば執筆者の専門に近い研究分野におけるμSRの適用研究例を寄せ集めたようなスタイルが主流でしたが,結果として磁性や超伝導を研究するための探針としての理解と,物質中での「水素同位体」としてのミュオンの存在状態についての情報源としての理解が乖離しがちで,初学者にとっては消化不良を起こしやすい状況でした。
本書では,この両者をふたたび有機的につなぐとともに,必要とされる基礎知識をμSR実験における時系列の3段階に従って構成しなおすことで,手法そのものについての入門書としての役割をも担うことを意図しています。
第1章 はじめに
第2章 素粒子としてのミュオン
2.1 素粒子物理学における標準理論とミュオン
2.2 弱い相互作用における空間反転対称性の破れ
2.3 ミュオンの基本的性質
2.4 ミュオンスピン偏極の測定
第3章 ミュオンビームの発生と輸送
3.1 相対論的運動学
3.2 核反応によるパイ中間子およびミュオンの生成
3.3 陽子加速器の種類とミュオンビームの時間構造
3.4 ミュオンビームの取り出し
3.5 ミュオンビームと物質の相互作用
3.6 ミュオンビームと放射線損傷
3.7 ミュオンビーム冷却
第4章 物質中に停止直後のミュオンの状態
4.1 結晶格子とミュオンの相互作用
4.2 金属中のミュオン
4.3 半導体・イオン結晶中のミュオン
4.4 遷移金属酸化物中のミュオン
4.5 ミュオンと水素結合
4.6 分子性結晶中のミュオン
第5章 ミュオンスピン回転
5.1 スピン偏極の時間発展:一般論
5.2 核スピンとの相互作用
5.3 電子スピンとの相互作用
5.4 超伝導体中のミュオン
5.5 ミュオニウム
第6章 μSRで見た鉄系超伝導体の磁性と超伝導
6.1 鉄系超伝導物質の面白さ
6.2 CaFe1-xCoxAsFの島状超伝導
6.3 LaFeAsO1-xHxで見出された第2の反強磁性相
6.4 まとめと展望
第7章 おわりに
参考文献
須藤 彰三[ストウ ショウゾウ]
岡 真[オカ マコト]
門野 良典[カドノ リョウスケ]
目次
第1章 はじめに
第2章 素粒子としてのミュオン
第3章 ミュオンビームの発生と輸送
第4章 物質中に停止直後のミュオンの状態
第5章 ミュオンスピン回転
第6章 μSRで見た鉄系超伝導体の磁性と超伝導
第7章 おわりに
著者等紹介
門野良典[カドノリョウスケ]
1982年東京大学理学部物理学科卒業。1985年東京大学理学系研究科物理学専攻、博士課程中途退学。東京大学理学部助手。1987年東京大学理学博士(論文)。1988年TRIUMF(カナダ国立中間子研究所)博士研究員。1990年特殊法人理化学研究所研究員。1997年‐現在、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所教授。1998年‐現在、総合研究大学院大学教授(併任)。2006年‐現在、筑波大学数理物質系客員教授(併任)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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