出版社内容情報
昭和初年代の,奇妙に無秩序な青春像の中で,中原中也は,秩序への違和とそこからくる挫折を,鋭敏な言語感覚で自由奔放にうたいあげた。本書は,著者自らの中也体験から,中也の抒情の真摯な表情とその不幸な耀き,更に,風土と近代との裂け目で苦しい告白を強いられたその詩の根拠を,詩の言語を通して,見事に浮彫りにする。
★加藤典洋さん(文芸評論家)「私のおすすめ」(「i feel」出版部50周年記念号より)★
「 私の蔵書歴には、何度かノアの洪水のような時期がはさまっている。そのためか、いま、探してみたら、ない。しかしこの本には本当に助けられたという思いが深い。いま手元にあれば、汚れきった本のはずである。これを持ち歩いていた頃は、とても本を大切に扱おうというような心の余裕はなかったから。一九七〇年から、一九七五年の頃まで。何かの拍子に当時、時代遅れと相場の決まっていた中原中也につかまり、東大の安田講堂から見下ろされた機動隊の姿が「正午」を思わせるなどという、噴飯ものの解釈が語られるのを、黒い絶望の思いで横目で見ていた。この本は、そういう孤立の淵のむこうから差し出されてきた一本の橋で、当時の私には、秋山駿氏の中原中也とともに、座右の書だった。読んで後に、この本自体が、深い孤立の産物でもあったことを知る。同じく、この本の生みの親の一人が物故した村上一郎氏であることを知り、うれしかったのを、おぼえている。」