出版社内容情報
これは,一人のモロッコ人の物語である。文盲のかわら職人であるトゥハーミは,女の精霊と「結婚」していて,性愛生活を完全に支配されている。著者はトゥハーミへの度重なるインタビューを通して,その幻想的な心理世界に分け入ってゆく――オリエント的なエロティシズム,イスラム世界の精霊信仰,そして従来の民族誌の約束事を逸脱する実験性がみなぎる奇書。
内容説明
これは、トゥハーミという名のアラブ系モロッコ人の物語である。彼は文盲のかわら職人で、自分の働く工場で窓のない物置部屋に住み、社会とは隔絶した生活を送っている。そして、アイシャ・カンディーシャという女の精霊と「結婚」しており、日常生活のさまざまな面を―とりわけ性愛生活を―完全に支配されていた。著者は、トゥハーミに対する度重なるインタビューを通して、その奇妙な心理世界に分け入り、それをなまなましく描き出す。そこには、オリエント的なエロティシズムや、イスラム世界の風変わりな精霊信仰がみなぎり、読む者を飽きさせない。トゥハーミの人生は読者に、一種の幻想的世界を垣間見せてくれるだろう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
呑芙庵
3
聖霊(ジンナーニー、ジーニーの女版)に憑かれたモロッコの男性との対話を機にかかれたもの。精神分析と民族誌、フィールドワークと力動的精神分析描写、色々と整理がつかない、衝撃をくらった。こんなものがあるのか!と。/マジュラーン(狂人)とマグリブでの聖者信仰との結びつき、ジンに憑かれた場合の治療法(治療というよりは癒し)などなど、どれをとっても興味深かった。/最後は壮大な群像小説のラストシーンのよう。ぜひ読んでほしい。/感無量。学術的関心で読んだはずが、途中から織物として紐解く愉しみに耽溺してしまっていた。2017/06/07
★★★★★
1
実験的民族誌の代表格。ただし、中盤のトゥハーミに対して一種の精神治療を施すあたりからは未開⇔文明(西欧)の古典的図式を固定化してしまっているように感じる。2008/08/31
山田
0
これはすごい民族誌だ。ザ・民族誌というものとは言えないが、人を惹きつける魅力がある。2014/06/25