内容説明
今日の人類学は、民族誌を書くことについてさまざまな方向からの実験を試みている。著者たちによれば、このことは人類学が本来もっていた潜在的可能性の実現につながるものである。文化を記述する方法の反省をつうじて、著者たちが「文化批判」と呼ぶ人類学の役割が浮上してきており、それがいまこそ、人間科学全体の核心的問題となりつつある、というのだ。本書はこうした観点から20世紀の人類学の発展を跡づけながら、その未来を展望していく。とともに、他の社会学や人文科学の混迷に対する提言ともなっている。人類学の立場からなされた尖鋭なポストモダン論としても定評ある好著である。
目次
人間科学における表象性の危機
民族誌学と解釈学的人類学
異文化の経験を伝えること―人間、自己、そして感情
世界規模の歴史的政治経済の説明―社会を大規模システムとの関連で知ること
文化批判としての人類学の自国への回帰
人類学における文化批判の2つの現代的手法
感想・レビュー
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再読。改めて読むと、訳文のしまりのなさがちょいと気にかかる。前半の実験民族誌のレビューはすごく面白い。後半の、民族誌学はすべからく意識的に自文化批判たるべしという(暗黙の)主張には、若干の押しつけがましさも感じた。自文化への攻撃なしにオルタナティブを提示するというあり方も、広義の批判として許容されてしかるべきじゃないのかなぁ。2011/09/11
★★★★★
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これも民族誌を書くことについて考察する本。解釈人類学が登場するまでの学説史と折々の課題を通覧したのち、1986年当時に最先端であった実験的民族誌の代表的な作品を論評してゆきます。そして、他者の表象を通して自文化の批判を行うことを明確な目的とする、批判人類学の可能性を論じてゆくわけです。脱植民地化の文脈における人類学の危機に際して、民族誌とは誰が読むものかを再考することで、学問としての存在意義を再確認する意図が根元にはあるようですね。訳者はそんな読み方だけはするなと言ってますが、参考書的に便利なのも確か2009/09/23