出版社内容情報
男性が母親の影を克服し精神的に成熟するには何が必要か。これは,「男らしさ」というものがあいまいになっている今日,困難な問題といえよう。本書は,ローマ時代の文人アプレイウスによる小説『黄金のろば』をユング心理学で読み解きつつ,男性の自己実現において〈内なる女性〉がもつ意味の大きさを説く,現代の男女双方に対する重要なメッセージである。
内容説明
男性の精神的成熟は、もちろん容易にかちえられるものではない。そのためには何が必要とされるのか。本書は、この難題にユング心理学の立場から迫るものである。ローマ時代の文人アプレイウスによる『黄金のろば』を題材にとり、ろばの姿に変身した主人公がさまざまな試練を経て人間に戻る、というこの物語を、“男性が母親コンプレックスを克服して成長するプロセス”の象徴ととらえる。そして、重要なことは自分の〈内なる女性性〉とどのように対していくかだ、と説く。
目次
第1章 アプレイウスの生涯と哲学
第2章 2人の道連れとアリストメネースの話
第3章 ルキウスは、ビュラエナ、フォーティス、そしてやぎの皮袋に出会う
第4章 ろば
第5章 アモールとプシケー〈I〉
第6章 アモールとプシケー〈II〉(プシケーとエロスのメルヒェン)
第7章 プシケーの課題
第8章 カリテー、トレーポレムスと地下的な影
第9章 ろばが仕える主人たち
第10章 ルキウス、我に帰る
第11章 女神イシス
第12章 物質と女性性
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内島菫
18
私は、取り立てて心理(学)的な読みが有効とは思わないが、著者の師であるユングの心理学に触れることができ、それはそれでよかった。「訳者あとがき」にある「女性が女性であるのに対して、男性は男性にならねばならない」という言葉を、ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という一節と対比させるとき、各々の視点(心理学的な視点と社会的な視点)の違いが見えてくる。つまり、女性が最初から女性であるのは心理的な面においてであり、男性が最初から男性であるのは社会的な面においてであるということなのだろう。2019/08/08