感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
55
イギリスに留学したスーダンの秀才ムスタファーの悲劇とそこから浮かびあがる東西の軋轢。ムスタファー・サイードはイギリスで何人もの白人の女性たちを誘惑し、彼女たちはムスタファーに夢中になり、破滅し、死んでいった。ムスタファーは裁判にかけられ実刑判決を受けたあと故国に戻り、語り手が生まれた小さな村に来た。ムスタファーが見た故国と西欧とのあからさまな違い。どんなに彼かあらがっても、それは厳然としてそこにある。ムスタファーが白人女性にもてたというのも、一つのメタファーにすぎない。⇒2023/02/14
H2A
13
スーダンの作家タイーブ・サーレフの代表作。イギリス留学して帰国した主人公はムスタファ・サイードというやはりイギリス帰りの、地元の名士になった男と知己をえる。ある時ムスタファは自分の半生を語りイギリスで犯した罪を語る。そのあとで彼は不意に帰らぬ人となり妻と息子たちの後見人に指名した。首都ハルトゥームで官吏となった主人公が帰郷すると、ムスタファの未亡人フスナが巻き込まれた悲しい最期を知ることになる。未開の地と西欧の対比とか、そこでの女性の社会的地位とか、ムスタファと主人公の二重性とかそういう主題も→2020/02/24
てれまこし
6
北スーダン出身の作家。西欧のことを学び、西欧に憧れる知識人は、それでも故郷を愛する。宮崎湖処子の『帰省』に描かれた明治青年の郷里に対する愛情に近い。そこには「北」にはない生の悦びがある。が、「南」はやはりすでに異郷でもあり、そこに帰還することはできない。故郷を持たず虚偽に生きたムスタファ―は語り手自身のアルターエゴである。非西洋国の知識人とは彼岸にも此岸にも渡れず、川の真ん中で沈んでいく人間のようなものなのだ。寄生的役人や「仕事をしない」イスラムのイマームのように、人々が生きる現場からは遠い存在なのである2019/08/05
takeakisky
1
故郷に残った人々すら社会的には一部北的な考えをする。北を体験した者の北との邂逅はもう少し複雑な葛藤を生む。彼らの北の認識は、愛ではなく憎しみを基調とする。一方、北の人々にも南との出会は衝撃と葛藤を生む。ジーンとムスタファーの関係。ムスタファーへ惜しみない愛を注いだロビンソン夫妻に対する彼らの、ときに醒めた目線。錯雑とした線とそれが交錯したときに生じる無数のギャップ。その後では最早、同じではいられない。部屋。河。移動手段の発達で、異質なものが隣り合わせとなったことによる軋み。落ち込んだ人々。うたれる本。2023/09/16