内容説明
クウェイトへの密出国をはかる3人のパレスチナ難民。空のタンクに3人を隠した給水車は炎熱の砂漠を突っ走る―悲惨な死をとおして、国家とは何か、民族とは何かを問う傑作「太陽の男たち」など7編収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
とよぽん
44
パレスチナの人々を描いた絵本から、カナファーニーの「悲しいオレンジの実る土地」を知った。1948年、12歳のとき家を追われ、土地も奪われ、難民となった作者一家はシリアに逃れる。その後転々と移り住み、カナファーニーは政治活動へ。鋭い論はイスラエル側の脅威となり、彼は暗殺された。36歳、無念の最期。残された作品は、パレスチナの人々が絶え間のない収奪の連続でいかに不当な人権侵害を被ってきたか、淡々とした文章で絶望の景を描写し、語る。本書は「現代アラブ小説全集7」、大江健三郎氏の後書きが47年前のもの。2025/11/21
秋良
15
以前、たぶんカナファーニーの短編で自爆テロをする側の視点の話を読んだんだけど、日本のニュースがいかに西洋側の視点に立っているか、自分もまた同じであったことに気づいて衝撃を受けた。似た衝撃にここでも襲われる。故郷を追われた難民の、世界を糾弾する姿は安易な同情をはね除ける。「かわいそう」は侮辱の言葉で、彼らは互い互いを憐れまない。言葉を聞いてもらえないなら武器をとる。だけどこの作品の舞台から六十年近く経った今も、世界は変わってない。2021/02/27
くれの
9
どの物語も行き場のない怒りとともに理不尽な仕打ちからくる遣る瀬ない思いに胸が一杯になります。ここに描かれるパレスチナへの収奪の歴史が英国の三枚舌外交に端を発し現在に至るまで続く姿なのかと歯噛みする思いです。2019/04/17
belier
7
いろんな意味で20世紀の歴史の重みを感じた。大国の勝手な論理に翻弄されて、住む土地を奪われて生きるパレスチナの人々。しかし作者は感情に訴えることなく、人々の生き様を砂漠のように乾いた文体で淡々と描く。登場人物たちは現実に対応して生きていくことに精一杯で、何者かを糾弾することをしない。それがかえって厳しい現実を浮き上がらせる。ストレートな文体で書かれているので、この日本とはまるで違う世界でありながら素直に入っていける。文学のための文学でない、世界をもう一度考えさせる文学。2016/05/08
Witch丁稚
3
この状況がニュースになったものは今まで何度も確かに目にしていた。つまりあれらのニュースの基にはこのような事態が何度もあり、ニュースにならないと切り捨てられるほど起きている。ニュースだけではわからないし物語だけでも伝わらない。ニュースと物語は両輪である。そして自然災害でなく人が原因なのなら何とかできないだろうか、なぜ私たちはなにもできないのだろうか、という悔しさを、目を背けることや弱いものを責めることで誤魔化しがちになることも自覚して、諦めないでいればいつか動かないと思っていた岩も動かせる日が来ると信じる。2018/07/10




