内容説明
おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、こめ…。「白いもの」の目録を書きとめ紡がれた六十五の物語。生後すぐ亡くなった姉をめぐり、ホロコースト後に再建されたワルシャワの街と、朝鮮半島の記憶が交差する、儚くも偉大な命の鎮魂と恢復への祈り。アジアを代表する作家による奇蹟的傑作。
著者等紹介
ハン・ガン[ハンガン]
1970年、韓国・光州生まれ。1994年、短篇「赤い碇」でソウル新聞新春文芸より作家デビュー。2005年、『菜食主義者』で李箱文学賞を、同作で16年にアジア語圏初のブッカー国際賞を受賞
斎藤真理子[サイトウマリコ]
1960年、新潟市生まれ。著書に『韓国文学の中心にあるもの』、訳書にパク・ミンギュ『カステラ』(共訳・第1回日本翻訳大賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
409
「私」、「彼女」、「すべての、白いものたちの」の3章から構成される。エッセイのようにはじまるが、やがてそれは散文詩のような文体に凝集されてゆく。一見したところでは、気まぐれに語られているかのように見えるが、全体を貫流するのは小説としての緊密な構成意識である。そして、これらの3章はいずれも変奏されてゆくモノローグだ。「白」はおくるみの色であり、また寿衣(死者の衣)の色である。そして、ここはソウルであると同時に時には破壊されたワルシャワである。作品内の時が流れる間、生と死は近接し、時には交換されたりもする。 2025/04/26
buchipanda3
115
生と死の記憶、そして祈り。生を授かった時の光景はどんなものだろうか。まだ見えずとも眩しさのようにすべてを白く感じさせてくれるのかもしれない。生きることの象徴のように白いものたちが囲む。やがて様々な色に染まり、汚れもあるが、いつかは何もかもから解放され再び白いものへ。著者は自身の生の肯定と否定に揺れる中、自分と姉の言葉を紡ぎ合わせる。それは孤独なものであるが、故国の悼む物語を描いた彼女はそれを書く勇気を持てた。薄紙の裏側の白さのような死も雪のように真っさらな白い紙の生も力を込めて綴った。記憶と祈りを胸に。2024/12/07
やいっち
113
前日から一昼夜も経ずに。一気読みするような生半可な作品ではないのだが。詩的な小説…それとも物語の形を持った詩の連なり。「おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。朝鮮半島とワルシャワの街をつなぐ65の物語が捧げる、はかなくも偉大な命への祈り」という作品。2024/12/16
シナモン
106
著者の人生に結びつけられた白いものたちの記憶。たっぷりととられた余白、詩的で美しい文章。ページをめくるたびにひとつひとつが静かに深く心の底にたまっていく。幻影のなかを漂いながら読み進める感じだった。とても良かった。ー意識のない状態で、赤ん坊は乳房をくわえ、少しずつ飲み込んだ。もっと、もっと、飲み込んだ。まだ目は閉じたまま。今このとき、自分が超えつつある境界が何であるのか知らぬまま。(P136)ー寒さが兆しはじめたある朝、唇から漏れ出る息が初めて白く凝ったら、それは私たちが生きているという証。(P87)2025/06/22
遥かなる想い
103
「白いもの」を主題に書き綴った短編集である。白を基調にした色彩感が全編に漂い 心に染みる文体で構成される。 生後すぐに亡くなった姉への想い、ナチにより破壊された街ワルシャワ…短い物語と 間に挿入された写真が印象深い。 ひどく儚く、祈りが感じられる短編集だった。2024/12/24
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