出版社内容情報
文系的知識と理系的知識の融合、知と情の両立。百科全書的な知識で「人間とは何か」を描ききった衝撃のデビュー作!
リチャード・パワーズ[パワーズ,R]
著・文・その他
柴田 元幸[シバタ モトユキ]
翻訳
著者等紹介
パワーズ,リチャード[パワーズ,リチャード] [Powers,Richard]
1957年アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。『舞踏会へ向かう三人の農夫』でデビュー後、着実なペースで読みごたえのある作品を発表している。邦訳された作品に『エコー・メイカー』(全米図書賞受賞)などがある
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年東京都生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳家。著書に『アメリカン・ナルシス』(サントリー学芸賞受賞)、『生半可な學者』(講談社エッセイ賞受賞)など多数。訳書にピンチョン『メイスン&ディクスン』(上下、日本翻訳文化賞受賞)など多数。2017年、早稲田大学坪内逍遙大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えりか
49
知識量と複雑な人間関係につまずくが、すごい物語とかしかいいようがない。これは二十世紀の物語。ぬかるんだ道に立つ三人の農夫。この写真を発端として進む3つのストーリー。それぞれのストーリーが大きく広がっていくものの、複雑な人間関係を形成しながら、バラバラであった三つの物語は繋がっていく。その繋がっていく過程に心奪われる。また戦争や技術革新の二十世紀という大きな歴史のうねりを描きながら、それに巻き込まれていく、三人の農夫たちの運命が見事に描き出されている。彼らが向かう先は舞踏会という名の暴力と変化の二十世紀。2018/07/28
ヘラジカ
36
ここまでの力作が、作者自身は読まれることを想定していなかったとは驚きだ。確かに持てる知識とエネルギーを全てつぎ込んだ感のある作品だが、目的や構想がしっかりしているからか整然とした印象を持つ。三つの時間軸と物語の僅かな"ズレ"は立体化させる為の試みだとは、なんて技法的な作家だろう。該博な知識も併せるとやはりピンチョンを思い起こす。読者を視ていないにも拘らず、ミステリー仕立てで読ませるストーリーを完成させているのも素晴らしい。これがデビュー作だなんて世界にはとんでもない作家がゴロゴロいたものだ。2018/07/10
tokko
24
アウグスト・ザンダーの一枚の写真から壮大な物語が紡ぎ出される。ペーター、アドルフ、フーベルトがどのようにしてこの写真に映るに至ったか。そしてどのようにこの後の人生を歩むことになったのか。そして彼らが生きる二十世紀は一体何だったのか。戦争と消費社会、情報産業にオートメーション…。実在の人物ヘンリー・フォードやサラ・ベルナールなどを巧みに登場させ、どこまでが本当でどこからが創作か(そもそも本当ってなんだろう)境界線も歪みも感じさせない力作。歴史や記録についての考えが揺らぎます。2018/08/01
かふ
22
ポストモダンとは批評なのである。この批評小説は19cのプルースト『失われた時を求めて』を批評していく一枚の20c の写真(ポスト・モダニズムの写真論、ベンヤミンが引用されたりする)から仮装舞踏会のような21cに向かうオーウエルの世界のアメリカ(ネット社会への変遷)、そこにアメリカの産業文化を築いたフォードの自動車産業がメキシコの壁画作家リベラによって逆オリエンタリズムで語られる。そしてフォードの「愚か者の船Ship of Fools」という寓話は、ヒッピー世代のアメリカの歌となっていくのだ。2024/07/11
おおた
22
やっぱりパワーズとの相性わろし。写真1枚から20世紀を浮かび上がらせるというのだけど、逆に考えると実在の文化人3人が中途半端に使われて終わっている。物語の中心から外れたところをぐるぐる回り続けて結局たどり着かなかったという印象。「小説のテーマ」とかではなく、あらゆるものを3つに分けたことがネガティブに、薄まって働いているように読める。写真複製からの情報論も現代から見ると過去の1シーンどまりで、それやるなら21世紀へのつながりを見せてよ、と中途半端さが否めない。2018/08/14