内容説明
『伝奇集』や『幻獣辞典』で有名な二十世紀ラテンアメリカ文学の巨匠ボルヘスをはじめ、コルタサル、パスなど、錚々たる作家たちが贈る恐ろしい十五の短篇小説集。ラテンアメリカ特有の「幻想小説」を底流に、怪奇、魔術、宗教、伝承、驚異などの強烈なテーマがそれぞれ色濃く滲むユニークな作品集。『百年の孤独』を訳した鼓直が精選し、独自に編集したオリジナル文庫。
著者等紹介
鼓直[ツズミタダシ]
岡山県生まれ。東京外事専門学校イスパニヤ語学科(現・東京外国語大学スペイン語学科)卒業。元法政大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
123
ラテンアメリカの怪談は、夏よりハロウィン向きかも。底知れない闇に引きずり込まれたり、陰鬱さに息苦しくなったり。1990年~今から30年前に編まれた、ラテンアメリカ作家15人の珠玉の短編たち。その時は存命だった作家さんも、すべて鬼籍に入ってしまわれた。グァテマラのミゲル・アンヘル・アストゥリアスによる『リダ・サルの鏡』では、彼女の不安さを共に抱え絶望した。アルゼンチンのフリオ・コルタサル『奪われた屋敷』 もいい。アルゼンチンのレオポルド・ルゴネス『火の雨』も、アポカリプスの世界のようで情景が頭から離れない。2020/10/15
藤月はな(灯れ松明の火)
102
去年の夏、紀伊国屋書店のみで限定復刻された本が遂に新装版として出版されました!有り難や~。ほとんど、読んだことがある作品だけど、やっぱり、色々、ジャンルがごたまぜになったラテンアメリカ作品はお得感があり、堪らないです。「彼方で」は親に反対されたために心中した恋人たちの視点が切なくも恐ろしいため、浮かんだイメージはエゴン・シレーの『死神と乙女』でした。「ポルフィリア・ベルナルの日記」は少女の潔癖さや腹黒さ、幻覚と現実を惑わすような語りは『ずっとお城で暮らしている』みたい。「魔法の書」はメタ的な怖さにヒヤッ。2018/01/09
青蓮
95
本書はラテンアメリカ特有の幻想小説を低流に怪奇、魔術、宗教、伝承、驚異などのテーマで編まれた作品集。どの物語も絶品。突然晴れた空から火が降ってくる「火の雨」、許されない恋人同士が心中し幽霊となって逢瀬を重ねる「彼方で」、メビウスの輪のような、深淵を覗く「円環の廃墟」、ややコメディタッチの「吸血鬼」、読んでも読み尽くせない「魔法の書」、海の波を恋人のように過ごす「波と暮らして」などがお気に入り。特に凄いのはやはりボルヘスの「円環の廃墟」。とても短い物語なのに果てしない広がりがあり、幻惑される。大満足の1冊。2018/05/25
藤月はな(灯れ松明の火)
61
再読。矢張り、ソドムとゴモラの街を滅ぼした硫黄の雨を描いた「火の雨」が凄絶。特に傷ついた瀕死の獅子の咆哮の部分はどんな描写よりも天の理不尽さによる痛ましさが感じられる。「リダ・サルの鏡」は御呪いを使った恋の成就が手法に拘るが故に崩れ去る。目的と手段が反転するのはよくある事。また、「吸血鬼」の正統な吸血鬼の顛末と拝金主義的メディア界のイレギュラーな」出来事での右往左往に比例する手玉の取りぶりはブラック・コメディめいている。「大空の陰謀」は初読時はSFと思っていたが、一種のディストピア物とも読めます。2022/08/07
sin
58
怪談と云うか奇談である。怪奇と云うより奇妙な物語であって、ラテンの風土の影響か、おどろおどろしさは無く、寓意的と云うか不条理を扱った文学的な作品といった趣だった。2018/08/19