内容説明
「ジュネという爆弾。その本はここにある」(コクトー)。「泥棒」として社会の底辺を彷徨していたジュネは、獄中で書いたこの一作で「作家」に変身した。神話的な殺人者・花のノートルダムをはじめ汚辱に塗れた「ごろつき」たちの生と死を燦然たる文体によって奇蹟に変えた希代の名作が全く新しい訳文によって甦る。
著者等紹介
ジュネ,ジャン[ジュネ,ジャン][Genet,Jean]
1910‐86年。孤児として里親のもとで育つ。多くの犯罪に手を染めるが、42年、獄中で書いた『花のノートルダム』で注目される。以降、『泥棒日記』『葬儀』などを執筆。60年代以降は黒人解放運動、パレスチナ問題などにかかわり、それを『恋する虜』に結実させる。20世紀で最も重要な文学者のひとり
鈴木創士[スズキソウシ]
1954年生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
49
こんなにも「綺麗は汚い、汚いは綺麗」を体現した本はあっただろうか?煌びやかで刹那的な人殺しの男娼と女衒の日常と関係性からの転落。猥雑なのにあっけらかんとして物悲しく、汚穢に満ち溢れている筈なのに花や着物の色が万華鏡のように美しく、煌く。牢獄の中で病毒と汚穢と血に塗れて死んでしまった人殺しの姿はまるで宗教画のような崇高さと美しさを湛えている。花びらが一枚、一枚と堕ちていくような緩慢なる滅びの美しき一瞬を眼に焼き付けられたような気持ちです。2014/01/23
乙郎さん
9
何度か挫折していた作品ではあるが、登場人物の特徴をメモしていくことで、どうにか読破。多分、勢いで読んでも残るものはある。作者の脳内が混乱し、時系列も、美醜も、性別もシャッフルされているとか、そういった印象は残るだろう。しかし、この作品世界に積極的にコミットすることで、いろいろ感じるものはあった。まず、意外と登場人物は絞られており、かつ、確かに物語性は薄いのだけれども、退廃的な日々とその終わりの部分は示されているので、ある種の青春小説として読むことは可能。2024/07/06
やいっち
9
やはり、すごいとしか言いようがない。エロティシズとかじゃなく、ある種のストイシズム。痛切な天邪鬼なのか。サルトルの『聖ジュネ』を読みたくなった。2016/06/26
北風
6
登場人物たちの誰も彼もが彼女で、男か女かわからず混乱した。綴られる言葉は美しい。綺麗は汚い、汚いは綺麗、といった様相。美しい言葉の中に落ちている卑猥な言葉はそこだけくっきりと目立つ。ステンドグラスのように登場人物たちは美しいけれど、その背景は継ぎ接ぎのモザイク模様のように見えてこない。彼らの世界はきらきらしていて、汚くて、こっちのほうがいったいどうしたらいいのかわからなくなってしまう。2011/07/24
海野藻屑
3
不思議な感情が湧いた。子供も大人も男も女も平等に酷い目にあう世界ではチカラこそが全てだ。そして、そのチカラこそ人間が本質的に求めるものなのだと思った。2017/07/08