内容説明
「生産」を至上の価値とする社会に敢然と反旗を翻し、自らの「部屋」に小宇宙を築き上げた主人公デ・ゼッサント。澁澤龍彦が最も愛した翻訳が今甦る。
著者等紹介
ユイスマンス,J.K.[ユイスマンス,J.K.]
1848‐1907年。フランスの小説家。実直な官史として役所に勤める傍ら、過剰ともいえる作品を次々と生み出していった。ゾラに認められ自然主義的な作品を書いていたが、『さかしま』で一転、「人工楽園」を構築した。その他、悪魔崇拝を『彼方』で、カトリックの聖性を『大伽藍』で描き尽した
澁澤龍彦[シブサワタツヒコ]
1928‐87年。東大仏文科卒。サドの作品をはじめ数々のフランス文学を翻訳・紹介する。またエッセイストとしても令名高く、晩年は小説に独自の世界を築いた
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感想・レビュー
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優希
96
デカダンスの聖書と称されるのも納得がいきます。偏狂的理想と孤独にまみれた倦怠と嫌悪が退廃的な香りへと昇華されているようでした。それは魂の全てを現実から捨て、無限の中にある極限へと向かうことのように思えます。宗教的マゾヒズムすら感じられ、自らの宇宙的空間に閉じこもったあり方を美しさと醜さの同居した世界で表現しているように見えました。2017/02/25
ehirano1
89
デカダンスの聖書且つ、引きこもり小説の頂点と云われる本書。「自然主義文学」のゾラに影響を受けた著者は「反自然主義文学」という形で本書「さかしま」を出すという背景が面白いです。本書をより良く理解するためには、ゾラの著作も読む必要があると思った次第です。2024/09/16
HANA
74
ひきこもり文学の極北。筋らしい筋はなく、ひたすら引きこもって自分の趣味の世界に没頭する主人公。それでも引き込まれずにはいられないのは、誰しもこのような俗世間と隔絶した自分だけの小宇宙を持つという理想に寄った事があるからであろう。近代より反近代を、健康より退廃を、成長より腐敗を。デ・ゼッサントの姿は自分を含む全ての隠遁希望者の希望である。それでも自分だけの一冊の贅を尽くした本を作ったりモロオやルドンをひたすら愛でたり、羨ましいこと限りが無い。最終章の独白は作者自身のその後を考えると、妙に意味深であった。2015/10/22
らぱん
62
放蕩を尽くした男は、正しい教養人が極めるべき隠遁者の道を選び普請道楽に明け暮れる。延々と続くのは幻想御殿の偏執的で衒学的な解説で眩暈を起こしながらお勉強させてもらい処々で感嘆した。だが、俄然面白くなるのは彼の調子が狂いだすあたりからだ。びゅんびゅんと筆が走り滑稽になっていく。誉れ高き「頽廃の聖典」は、パンクやカウンター(=反抗)は逆らう相手である上位や権威があってこそのもので、実のところ、目指すべきはさらなる逸脱や飛躍だと仄めかす。男は真の求道者と自分との違いを薄々わかっているから「さかしま」なわけだ。↓2020/02/28
zirou1984
56
渋澤龍彦が「苦労しながらも、一番気に入っている翻訳」と称するデカダンスの聖書。偏執的な中世趣味の知性を煮詰めた上その藝術分を蒸溜することによって造られた、芳烈な馨香。享楽的な放蕩にも倦み疲れた遁世的な貴族の末裔、デ・ザッサントの引き籠もりライフとその趣味嗜好を淡々と綴るだけのこの小説が、なぜにこれ程も面白いのか。それは主人公の余りにも隔絶しながらも磨き抜かれたその美意識と蠱惑的でありながらもエログロまでは踏み入らないバランス感、そして肉体と感性の相互性を自覚したその滑稽さによるものだろう。快作にして怪作。2016/08/23