内容説明
“絶望のアナーキスト”から“反ユダヤ主義者・対独協力者・戦争犯罪人”まであらゆるセンセーショナルな肩書きを背負ったセリーヌは、呪われた作家だ。だがその絶望と怒りの底には、声なき弱者への限りない慈しみが光る。そして哀しみとユーモアも。生来負債として負わされている死を、なしくずしに支払っていくしかないと謳う、狂憤の書にして愛に満ちた救いの書。
著者等紹介
セリーヌ,ルイ‐フェルディナン[セリーヌ,ルイフェルディナン][C´eline,Louis‐Ferdinand]
1894‐1961年。フランスの作家。三八歳のとき出版した『夜の果てへの旅』が大反響を呼び、ゴンクール賞候補となった。常識を無視した大胆な文体破壊と狂憤に満ちた良俗侵犯は、第二次大戦中の彼の反ユダヤ主義への非難と逮捕によって一時葬られたが、亡命三部作を経て死後に再評価が高まった
高坂和彦[コウサカカズヒコ]
1932、東京生まれ。東京外大、東京都立大大学院修了。仏文専攻
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感想・レビュー
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かんやん
22
「こん畜生の畜生野郎め!ならず者!怠け者!こいつは本物の災害だ!役立たずだ!病毒だ!さあ、言え!すぐに言え!おれたちを殺したいと!言え、汚らしいごろつきめ!」こんな風にフェルディナン少年は父に罵られる(ごく一部です)。こんな調子で何ページも続くんです。もう、いっそ爽快でしたね。父さんが噴死するのではとハラハラしましたね。何をやってもうまくいかないトラブルメーカーの職探し&職場での受難。予想の斜め上をゆく展開に笑わせてもらいましたが、仕舞にはいささか飽きがきましたね。そう、セリーヌの文体は単調なんです。2018/08/27
マッピー
15
どうしてもこの、非衛生的な環境について綿々と語られる文章を一気読みする気にはなれず、毎日少しずつ読む作戦だったのですが…結論から申しますと、時間切れ終了です。図書館に返す時間になっても、読み終わりませんでした。だからといって、返却を一週間延長しても、無理です。そこはかとないユーモアはわかりますが、断片だけで構成されたこの作品にかける気力も時間ももはやない。ごめんね。さいごの方だけちらと飛ばし読みしたら、なかなか面白そうだったので、気力と時間があれば再挑戦するかも。ということで、赦してください。2023/12/02
みみみんみみすてぃ
11
★★★★★ 少々全体を通しての4/6~5/6あたりが長くて、やや冗長かなという気がした。クルシアル夫妻がどんどん酷くなっていく様を主人公も一緒になって見届けて行く……という感じで、堕ちる堕ちる(笑)。悲しくて、哀れなんだけど、目をそむけたくなるようなものではなくて、一種のタフさがあって……。途中で音読をしたりしたんですが、激しい短文の重ね合わせなど、こういうのが「畳み掛けるように」ということなんだなと気付きました。激しい文体。2016/05/18
フリウリ
9
発明、冒険、畑仕事など、下巻は上巻よりも展開があります。悪罵だらけの本書です。世界は悪罵に満ちている、というのは世界の一面的な見方ではあるけれど、反復的・増幅的な悪罵が現実空間に浸潤している時代においては、一面的な真理であると思われます。昔も、今も。かなり暗い気分になりました。ところで、昔の(フランスの)子どもは、おしりを拭かなかったのかな? 72023/11/24
白義
9
上巻は普遍的でどこにもあるだろう腐敗した底辺が描かれていたが、トンデモ発明家クルシアルの登場からは毒々しくも僅かに陽気なスラップスティックコメディ要素も入り、徹底的な現実感と非現実感が相互作用を起こし増幅されていく。この小説の文体は汚俗を語るために特別に創られた地獄の言語であり、徹底的な文章破壊はもはや凝縮された愛憎とやるせなさを表現するためには倫理や社会や言葉や人間からすべて破壊せねばならぬという破れかぶれの叫びだろう。そしてその悪質さはこの作家の慈しみや優しさと些かも矛盾しないのである2012/08/16