内容説明
人体の多くの断片が、ほとんどフランス全土にわたって、さまざまな貨車の中から発見された。被害者は極度の肥満体の女性、そしてこれらの断片を運んだ列車は同一地点―ヴィオルヌの陸橋を通過していることが判明した。だが、いまだに頭部のみは発見されていない…。デュラスが実際の事件に取材し、十年の歳月をかけて結実させた「狂気」をめぐる凄絶な物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
188
九つの貨車から発見された人体の断片は、ヴィオルヌの陸橋通過時に投げ込まれたと推定された。或る夜、カフェでそのことを語り合う6人。初めはその録音を基に、カフェの店主が説明を入れる形で進行する。そこでは或る人の狂気が伏せられており、会話も誰が喋っているかわかりづらい。のちに彼らへの取材によって事情が見えてくる。作者がこんなややこしい構成にした理由を考えるに、「狂気」という言葉の届き得ぬ空白に、予め読者を直面させておくためか。人々がその空白とどう関わったかを取材し、犯行動機に迫っていく…この流れに引き込まれた。2024/01/27
こばまり
59
人生がうまくいかなかった犯人の静かな戸惑いのようなものがひたすら感じられ一人の女性として哀れみを覚えた。殺害の状況だけを実際に基く本作をノンフィクションノベルと呼べるのかはさておき、作家の世界観が確と形作られていることに感心した。2021/01/05
ω
25
フランス全土のさまざまな駅でバラバラの死体断片。全ての列車が通過したのは、本作の舞台ヴィオルヌ。「狂人と見做されているオバちゃんが、従妹のでぶっちょを殺した。やっぱりね。」て町の人は皆思っている……。 頭部だけ発見に至らず、それだけが知りたいライターが関係者を問いただす。しかし皆、狂人を狂人で片付けて、結局解決はしないのだ( ・´ω・`) 戯曲を小説にするにあたって、会話のみの質問形式にされたらしいが、この手法は面白い♫2020/03/01
松本直哉
23
全編会話文のみからなる構成は戯曲に似て、問いつめる声と言いよどむ声の交錯のうちに、バラバラ殺人事件の真相をめぐる会話が展開するが、真犯人は早々に判明しても、最後の証拠品の在り処も動機も不明なまま。理性的秩序は常に犯罪の背後の動機を穿鑿するが、太陽のせいで殺したと言うムルソーがそうであるように、動機は必ずしも明確とは限らない。そのせいで精神異常とされる犯人の言葉が、にもかかわらず誰よりも明晰に自らの孤独と疎外を語るのを聞けば、異常と断じてあちら側に押しやるこちら側の人々のほうがどうかしていると思いたくなる2024/12/08
PukaPuka
4
デュラスって、いかにも酒飲みながら原稿書いてんだろうな〜っていう間合いが魅力のひとつ。異常犯罪も、デュラスが扱うと、こんな感じでしょうね。ヌーヴォー・ロマンですから、犯罪の真意は読書の頭の中で構成せよ、ということかと思います。同じ題材で推理小説にしたものがあれば、ぜひ読みたいですね。2021/07/03
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