内容説明
翻訳とは、異言語の間に橋をわたして心の行き来を助ける仕事。地図のない旅。肉体労働。かけはなれた言葉と言葉が響き合うありさまは、変幻きわまりない万華鏡のごとし。ミステリ、SF、純文学、エッセイ…あらゆるジャンルをこなし数々のベストセラーを生みだした名訳者が明かす、翻訳の極意。
目次
蒟蒻問答
記憶の細道
桑名の焼き蛤
唐詩選の風景
幽邃の森
学生訳者
新しい世界の文学
大学は出たけれど
シーガル旋風
さすらいの旅路
翻訳の遠近法
編集者との対話
記憶の本箱
翻訳の言語環境
著者等紹介
池央耿[イケヒロアキ]
1940年、東京生まれ。翻訳家。国際基督教大学教養学部人文科学科卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Inzaghico (Etsuko Oshita)
11
追悼・池央耿氏。大好きな翻訳者だった。一言で言えば、池さんの文章と相性がよかった。これに尽きる。リズムや言葉の選び方が、まさに好みだったのだ。このエッセイを読んで、文章が好みなのは、日本の古典や演芸文化に通暁しているからだ、と得心がいった。落語の「蒟蒻問答」が出てくるは、土井晩翠が出てくるは、びっくりする。土井晩翠は『イーリアス』と『オデュッセイア』も訳していたとは(それも完訳)。 大好きなヘンリー(アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズの名探偵の給仕)にもページが割かれていて嬉しい。2024/01/22
うた
9
海外小説を読まれる方なら、池さんの名前を見かけたことがない人は珍しいのではないか、というくらいの冊数を訳されている翻訳者さん。私の守備範囲外ではあるけれど、アシモフや創元推理のいくつかは読んでみたいと思わせるものでした。3部構成で、上段の自伝プラス翻訳歴が、ご本人が楽しく読んで訳してきたことが伝わって一番面白かった。中段はほぼ訳した本の魅力語り、下段は私的翻訳論言語論。2024/01/20
Susumu Kobayashi
7
学生時代に森鷗外に私淑したという著者らしく、語彙、特に漢語が豊富(辞書を引かないとわからないことが多い)。詩にも造詣が深いらしく、翻訳家になったのは実に合っていたのだなあと感心する。なるほどと思うことも多かった。2025/02/18
がんもどき
7
池央耿はSFのガニメアン3部作を翻訳した人くらいの印象しかなかったが、面白そうな本を出していたのがわかったので手に取ってみた。今の読者は森鴎外や北原白秋の文章に触れないというのが丸々自分に当てはまるので恥ずかしい思いをした。古典どころか旧仮名遣いというので明治、大正時代の作家の本を敬遠しているからだ。言い訳するなら旧仮名は読みなれてないというのが大きいが、楽な方、楽な方に逃げちゃだめだなと思うことはあるので反省する。2024/06/28
tomo6980
5
訳者が池さんだから読もう、ではなくて面白いと思ったら池さんだった、というのが多い。『星を継ぐもの』なんて言われてみれば、の典型じゃないかな。読んでないけど『プロヴァンス」も。ベストセラーだからといって敬遠するのはやめよう、とちょっと思った。あと、巻末の「全仕事」が嬉しい。2024/01/23