内容説明
孤独は心の輪郭であり、人生に課せられた最低限の荷物なのだ―宝くじに当たった河野は仕事を辞め、碧い海が美しい敦賀で独り暮らしていた。ある日、居候を志願する役立たずの神様・ファンタジーが訪れ、奇妙な同居生活が始まる。孤独の殻にこもる河野だったが、彼に想いを寄せる二人の女性が訪れ…。傑作短篇「雉始〓」を文庫初収録。第55回芸術選奨文部大臣新人賞受賞作。
著者等紹介
絲山秋子[イトヤマアキコ]
1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞、2016年『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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路地
48
話の筋だけを追うと救いのない物語だけど、なぜか悲壮感を感じないのは登場する2人の女性の強さによるものか。それとも、繊細ながらもどこか飄然としている主人公の佇まいからくるのか。良いことも悪いことも受け入れることが人生であることを諭すような神の言動も軽いのになぜか心に沁みる。2023/04/27
サンタマリア
42
『海の仙人』は再読。やっぱりいいね。ファンタジーって、薄暗い部屋で自分と向き合った時に生まれるんかな?『お前さんが過去にしか生きていないと言うのなら、それは未来に対する冒瀆というものだ』という一文を心に引っ掛けながら読んだ。なんだったらまだ引っ掛かってる。オオヤドカリの白い貝殻や黒真珠のネックレスといった小道具の使い方上手いなぁとも思いつつ、新たな発見を楽しんだ読書でもあった。ただ、どうしても僕はこの小説を不穏だと感じてしまう。『雉始なく』も不穏な結びだし無力感さえ覚えた。2023/02/12
いっちゃん
24
小池アミイゴさんが描かれた表紙の絵がほしい。インスタ追いかけてみたら、描いた時の詳細がありました。ますますほしい。仙人てファンタジーを指すのかと思っていたら、主人公の河野のことでした。覇気のない男で、女に甘えてばかりで河野好きじゃないなと思ってたけど、想像より重い秘密を抱えていて、不憫でした。河野のあだなの由来のとこで笑わない人いる?かりんは健気過ぎな。片桐も。女子たち河野に対して健気過ぎ。たいした男じゃないのに。でも多分、恋ってそういうもんなんだよね。お手紙形式の雉始なくは、終わりにぐるんとなるお話。2023/04/11
ぜんこう
23
「海の仙人」は新潮文庫で既読だったんですが「神と黒蟹県」で半知半能の神が出てきてら「海の仙人」の役立たずの神ファンタジーを思い出して、新しく河出文庫から出た文庫で再読。 初読の時もそうでしたが、途中で涙&鼻水&ショックでしばし読めなくなったけど、再読して良かった。短いけど僕にとってベストいくつか(←ええ加減)に入る小説です。表題ともう一作の「雉始雊」(きじはじめてなく)は最後「え、え、え???」という感じ。どっちの話も最後はすっきりは終わらない・・・けどこういうのもいいか。2024/04/26
しゅん
21
絶版になっていた大好きな作品「海の仙人」が短編も追加され復刊。宝くじで3億円を当てたことで仕事を辞め福井県の敦賀で仙人のような生活をおくる男の出会いや別れを描いた作品。ファンタジーという謎の存在との会話だったり孤独や寂しさの描き方が秀逸で読み終えた後に静かな感動が込み上げてきて200ページ以内の作品では最高傑作だと思う。この作品を絶版のままにしておくのは非常に勿体ないと思っていたので河出文庫での復刊は本当に…本当に嬉しい。2023/02/12