出版社内容情報
充実したキャンパスライフ、堅実な将来設計、そして新たな恋――。肉体も人生も、潔癖なまでに鍛え上げた私に、やがて訪れた破局とは。現代の実存を問う芥川賞受賞作がついに文庫化。
著者情報
1991年生まれ。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。他の著書に『教育』がある。
内容説明
後輩のラグビー指導に熱を入れ、就職活動を間近に控えた大学四年生の私は、友人のお笑いライブで、新入生の灯と出会う。やがて私は、幼馴染で成績優秀な恋人の麻衣子よりも、無邪気な新入生の灯に惹かれてゆくのだが…。社会への最適化を求める現代で、肉体も人生も鍛え上げた男の「破局」を冷徹な文体で描いた、第一六三回芥川賞受賞作。
著者等紹介
遠野遥[トオノハルカ]
1991年、神奈川県生まれ。2019年、『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年、『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
99
ラスト20ページの展開で、すごく残念なことになったのは何故だ……。麻衣子と一緒に逃げている気持ちになり、坂を下って男の背中を目ざして疾走した時の興奮はすごくよかったのだが。顔が好きだと思える女の子の性欲の増進は、いくらなんでも荒唐無稽。でも、何か期待させられてしまう若さのライティングのパワー。舞台の大学は母校だった。2023/04/24
ふじさん
93
芥川賞受賞作。後輩のラクビー部の指導の手伝いをしながら就職活動をしている大学4年生の私が主人公。就職活動の間近にに控えた私は、友人のライブで灯と出会う。幼馴染で成績優秀な麻衣子より、無邪気な新入生の灯に惹かれていくのだが、セックスによって人生の破局を迎える男の姿を冷徹な文章で描いた作品。充実した大学生活を送り、堅実な将来設計を持った私に訪れる思いも寄らない展開、なんとなく怖い。最初は、読んでいて内容にすんなり入れなかったが、途中からは一気に読み切れた。哀れな男の姿が頭をかすめる。 2024/05/02
yoshida
70
独善と破綻。自身を倫理で律しつつ、他者には歓心が薄く独善で倫理観をあてがう。自身への他者からの拒絶。そこからの崩壊を描く。大学四年の陽介は自分を律し計画的に生活する。公務員試験の準備をし、鍛えた身体を維持し、恋人の記念日も準備する。だが倫理観の根拠が奇妙だ。所謂、最適解を求めるが実世界との解離があり、不穏な空気が流れる。新たな恋人の灯、元恋人の麻衣子も各々不穏さはある。お互いに最適解を求める為に断絶を埋めず、極端な崩壊を迎える。最適解を求める脆い社会への皮肉であろうか。性的な描写が多く好みは別れるだろう。2023/05/21
いっち
47
3回は読んでる。『改良』は4回読んでる。『改良』は初読から面白いと思った。『破局』は最初読んだとき、好きではなかった。性描写が多すぎた。3回は読んでるので、何かは面白いと思った。ストーリーではない。では何か。文章、語り口が面白い。セリフを「」で書かず、地の文に入れて書いている箇所は、語り口が強調されている。元カノが13ページ話し続けるのも、その間主人公が反応しないのも、よくわからないが、自分なりに解釈することで、面白味を感じられた。登場人物が、真面目そうに見えるのに、結果的にふざけている感じが、良かった。2023/04/11
おっしー
37
初の遠野作品。芥川賞作品だからと気張って読み始めたけど、全然読みやすかった。陽介のどことなくサイコパス感ある言動に読んでいる側としても少し困惑しつつ、面白く読み終われた。自分の思考を詳らかにしてから行動に移していく様子の言いようのない不気味さ。凡そ自分自身の中の「こうあるべき」という指針があって、そこを重視するがあまり行動にチグハグ感があるというか。付き合うことになった灯は灯で自分の欲望に忠実に動くし、友人の膝はロジックとはかけ離れた感情で動く人間で、それも対比として機能してるのかな。他の作品も読みたい。2024/09/08