出版社内容情報
失踪した父を追う青年、青に溺れる師弟、蠢く与那国蚕―愛と狂気の世界へ誘う十の物語。現代短歌の巨星の傑作短篇集、ついに文庫化。
内容説明
同じ男に想いを寄せた美術家姉弟の悲劇「月蝕」、冥界に迷い込んだ男と禁忌を破り囚われている男の束の間の交感「冥府燦爛」、師と共に蒼の世界を求めた青年に忍び寄る悪意「紺青のわかれ」―。秘めやかな愛に身を捧げ、儚い最期を迎える男たち。現代短歌の鬼才が精緻に煌びやかに織り上げた十の迷宮へようこそ。
著者等紹介
塚本邦雄[ツカモトクニオ]
1920年、滋賀県生まれ。歌人、評論家、小説家。歌誌「玲瓏」主宰。51年第1歌集『水葬物語』でデビュー。三島由紀夫の支持を受ける。以後、岡井隆、寺山修司らと前衛短歌運動を展開し、成功させた。『日本人靈歌』で現代歌人協会賞、『詩歌變』で詩歌文学館賞、『不變律』で迢空賞、『黄金律』で斎藤茂吉短歌文学賞、『魔王』で現代短歌大賞を受賞。2005年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
417
10の短篇を収録。タイトルは「蘭」、「月蝕」、「秋鶯囀」と、一話ごとに文字数を増やしてゆきながら、絢爛たる物語世界がそこに開示されてゆく。言語の煌びやかなること綺羅錦秋のごとく、イメージの豊饒なること定家の歌のごとく。物語の多くは死を内包しながら語られてゆく。またいずれの物語にも華麗な男たちが登場する。そして、彼らはまた男色の道に身を浸しているのである。ことに震撼するほどであったのは「月蝕」か。表題作の連句の妙味も捨てがたいし、他の作品いずれも、これぞ塚本邦雄という佳品ばかり。2022/06/22
buchipanda3
103
著者は前衛短歌の旗手として名を馳せた人物とのこと。こちらはその著者による小説集。奇異で煌びやかで見目麗しい文章、そこに映される奇妙奇天烈ロマネスクな人間関係が織りなす蠱惑的でミステリアスな物語を堪能した。古語風で難読漢字が羅列される独特な文体だが案外読み易い。舞台となるのは上品で優雅なものが多く、美術、文学、美食、秀麗、伝統の描写がその雰囲気を盛り上げる。そんな中、人の業や欲望がもたらした転となる帰結に呆然。それはまさに「容赦のない寂しい焔」。と共に「ソドミュートピア」と記された言葉にどこか合点をした。2022/08/25
ゆう
22
最近千葉雅也氏がTwitter上で、今こそ長野まゆみ作品を評価し直すことが面白いのではないかというようなこと(たしか/定かではない)を呟いていた。その背後に蠢くように潜むものへの接近として、私は塚本邦雄の小説を読んでいるという気がします。単純に面白いなーと思って読んでいるということの方が大事であります。2023/08/13
Porco
20
綴られる物語群に度々登場する毒婦と美少年のせいか、グランギニョルめいた毒々しいほど極彩色な血の様相を見出してしまう作品ばかり。ただそんな印象を受けつつも汚さや残忍さは全くなく、塚本邦雄の絢爛な語彙とイメージによるものか花の香りの甘さや清らかな美しさすら与えてしまう正に和製の耽美なゴシックというものを体現した物語は無二のものだ。2024/10/14
kieth文
19
最初からとても衝撃を受けた。 そして次々読み進む。どの話も期待を裏切らない面白さにびっくりする。耽美そして奇々怪界!まさかこんな物語だとは思ってもみなかった。 まずなんでこの本を買ったのかな、、、三島由紀夫関連? ずっと積読してて、何となく昨日手に取った。 いつの世も男色は秘め事だったのですね。 四季折々の花や、短歌詠みのしきたりは無知だったけれど、その風情や美しさは楽しめた。どれもこれもラストでびっくりさせられる! これこそ“どんでん返し“の醍醐味なのかな。 あと、人間って深い。2022/09/06
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- 和書
- 三國連太郎、彷徨う魂へ