出版社内容情報
女になりたいのではない、「私」でありたい――平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞作。
内容説明
ゆるやかな絶望を生きる大学生の「私」は、バイトで稼いだ金をデリヘルと美容に費やす日々。やがて女性の服を買い、「美しさを人に認められたい」と願うようになる。しかし人生で唯一抱いたその望みが、理不尽な暴力を運んできて―。平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞。
著者等紹介
遠野遥[トオノハルカ]
1991年、神奈川県生まれ。2019年、『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いっち
40
読んだのは3回目。著者の『破局』や『教育』は苦手だった(性描写が多すぎる)が、デビュー作の本作は面白い。新人賞を受賞した作品だと思う。何がそんなに面白く感じさせるのか。まずは、主人公の乾いた語りと、論理展開。美しくなりたいだけの主人公が、周りの男性から性の対象に見られてしまう。デリヘル女性からいじめられてしまう。「つくね」という友人のあだ名や、「山田」という主人公の偽名のおかしみ。前半に出てきたスイミングスクールやコールセンターのバイト、トイレの便座が、後半になって活きているのは、巧みな書き手だと思った。2022/04/16
Tαkαo Sαito
32
単行本で以前読了してるが、遠野遙さんのサイン有り文庫本を入手し二日で再読。相変わらずの虚無感というか、他人事感。破局から読み始めたが、破局に通じる幹みたいなものを再認識。単行本と違って、解説が読めるのでありがたかった。「納得感」かあ、自己を納得させる納得感が歪んだものでも、外からは見えないから、それが「正」としてまかり通ってしまう、現代の私たちにも他人事ではない、今風の世界観、価値観を含んだ、恐ろしくも読みやすい作品2022/02/01
ゆきらぱ
32
何て面白いんだろう。この主人公の感じ方捉え方がまっすぐになったり斜めになったりするのが読んでいてゆらゆらしてきた。相手の立場になった時初めて感謝の念が湧き出るところも、こんな時に?と差し迫った人間の揺れを感じた。2022/01/31
もえ
20
図書館本。初遠野遥。大学生の「私」は企業のクレーム対応のバイトを淡々とこなす。クレームの相手に対しても「別の世界の人間」と捉え感情を挟まない。「私」はバイト代を美容に費やし、やがて女装して美しくなった自分を誰かに見てもらいたいという願いが、ラストの悲劇へと繋がっていく。バイト仲間つくねの「自分がブスだからする必要がないこともやっているんじゃないか」とか、デリヘル嬢かおりの「歳を取って醜くなるのが怖い」という会話がリアルに響いた。平野啓一郎さんの解説にあった「自律的に他律的な主人公」というのに納得。2022/05/04
桜もち 太郎
13
解説の平野啓一郎が盛んにこの小説について「読者が感じる違和感」と述べていたが、自分的には全く違和感なく読み進めることができた。文体も余計な装飾がなくストレート。自分の容姿を醜いと感じ、ただ美しくなりたいと女装する大学生。ルッキズム、容姿コンプレックス、女装、デリヘル、小学生の頃の性体験、性暴力・・。何故だろうどれも違和感がない。もしかしたら自分と物語の主人公とは、深いところで繋がっているのかもしれない。次は芥川賞作品の「破局」を読んでみよう。2022/04/26