出版社内容情報
女になりたいのではない、「私」でありたい――平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞作。
内容説明
ゆるやかな絶望を生きる大学生の「私」は、バイトで稼いだ金をデリヘルと美容に費やす日々。やがて女性の服を買い、「美しさを人に認められたい」と願うようになる。しかし人生で唯一抱いたその望みが、理不尽な暴力を運んできて―。平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞。
著者等紹介
遠野遥[トオノハルカ]
1991年、神奈川県生まれ。2019年、『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイマックス
68
不快。おすすめしません。2023/02/05
いっち
52
読んだのは3回目。著者の『破局』や『教育』は苦手だった(性描写が多すぎる)が、デビュー作の本作は面白い。新人賞を受賞した作品だと思う。何がそんなに面白く感じさせるのか。まずは、主人公の乾いた語りと、論理展開。美しくなりたいだけの主人公が、周りの男性から性の対象に見られてしまう。デリヘル女性からいじめられてしまう。「つくね」という友人のあだ名や、「山田」という主人公の偽名のおかしみ。前半に出てきたスイミングスクールやコールセンターのバイト、トイレの便座が、後半になって活きているのは、巧みな書き手だと思った。2022/04/16
Kanonlicht
35
女装男子ということで、多様性がテーマかと思いきや、主人公は外見の美醜を人としての優劣の判断基準として考えているようなところがあり、ある意味ものすごく視野の狭い人物だったのが意外で面白かった。女装は趣味というより彼自身の「美しくなりたい」願望を叶える手段にすぎない。ルッキズムが問題視される世の中でありながら、皆心の中では多かれ少なかれ似たような感情を持っているのではないかと考えさせられる。これがデビュー作とは、著者は型にはまった融通のきかない人間を描くのが本当にうまい。2024/04/16
いっち
33
4回も読んでる。美しくありたい男子大学生の語り。ストーリー的に面白いわけではない。何か学びを得るわけでもない。それなのに定期的に読みたくなる。文藝賞の選考委員だった磯﨑憲一郎さんは、「思考の癖みたいなものがどうしようもなく出てきてしまっているところが、小説として信頼に足ると思った」と言う。思考の癖が、作品を形作る。磯﨑さんは、「小説は語り口がいちばん大事」「テーマとかメッセージなんて、ある意味どうでもいい」と言う。確かにそうだ。ストーリーより書かれてる文章を読みたい。文章の読み心地を求めて本書を手に取る。2023/02/25
梶
32
表面的に美しくあることが全て。そのさもしい価値観に拘泥し、自分の本来あるべき場所を、「美しい女性」に定めた男性の、歪んだ理不尽さは当然歪んだ物語を生む。自らの姿を増幅させ美しいと錯覚させる鏡が割れ、家=化粧室を追われることにより物語は一気に駆動してゆくのがよかった。また、たとえば金閣が絶対の美であった三島の作品のようにならず、美はありふれたものであり、駅前にもあるというのがリアルだった。『破局』も被虐的な描写があったように思うが、その味を思い出しつつ読み終える。2025/01/20