出版社内容情報
明治維新を迎えても東京は一大暗黒スラム街でもあった。そこに、渋沢栄一が中心に、東京養育院が創設される。その後の貧民たちは…。
内容説明
帝都の恥隠しか、福祉の柱か。維新直後・無政府状態の江戸市中は、こじきの都と化した。旧幕以来の弾左衛門、車善七配下の賎民組織も窮民救済に組み込まれた。身寄りのない子どもから老人たちの悲惨な実態を追い、資本主義の父・渋沢栄一がいかに貧民救済事業に尽力したか、今に続く苛酷な近代化政策の裏面史を描く。
目次
はじめに―大都市の宿命に抗して
序章 山手線の男
第1章 混乱と衰微の首都
第2章 困窮民を救え
第3章 さまよう養育院
第4章 帝都の最底辺
第5章 近現代の暗黒行政
最終章 小雨にふるえる路上生活者
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ワッピー
31
江戸幕府の資産を引き継いだ明治新政府が戦乱で焼け出されたり、地方から流入してくる難民を救護・収容するための施設・仕組み構築のあたりから今日までの施策史を追う労作。明治初期に創設され、つぎつぎに形を変え、移転を繰り返して現在に至る病院・設備のみならず、日本近代の歪みの中で形成された東京の4大スラム街、貧窮者の生活実態についても紹介。明治期の塘林虎五郎、石井十次や山本軍平といった民間の篤志家の業績を称える反面、政府の至らない政策に対する主観的な批判が散見されることは気になる。巻末の福祉政策年表は参考になった。2023/10/18
gtn
26
明治維新後、福祉政策は逆行する。東京府知事大久保一翁は、乞食に米や金を施す者に罰金を科する始末。諸外国に対する体裁もあろうが、根底にあるのは「福祉が惰民を生む」という偏見と差別。結局、立ち上がったのは篤志家。仏教やキリスト教に根差している場合が多く、そこに日本人がそもそも備えている、ほっとけない精神が融合。だが、現在、またも格差社会が拡大しようとしていることをどうみるか。2024/02/04
イトノコ
25
維新直後、東京の町は貧民で溢れた。幕府が貧民救済に用意していた七分積金は公共工事に費やされた。渋沢栄一らが運営に尽力した、養育院の歴史を描く。/貧民救済の養育院を運営したのが日本の資本主義の父、渋沢栄一だったのは皮肉と言うべきか。渋沢の晩年にはそれ故の苦悩があったようだが、たとえ偽善と言われても彼の行いは尊い。それに対し現代に通じる「自己責任」論を振りかざす行政…でも、確かにある種の貧しい人は人間的にアレな場合も多いから、行政を真っ向から否定できない自分もいる。それこそ自己責任論に毒されている証拠なのか。2022/02/28
ドラマチックガス
11
感想がなかなか言葉にならない。最近、大学教員がいわゆる「排除アート」を学生にみせたところ、ほとんどの学生が「ホームレスがいなくなるからよい」と答えたという記事を読んだ。そういう価値観に移ってしまったことの悲劇を感じる。第5章後半、戦後の怒涛の展開がなんともやるせなかった。それと、慈善活動等を偽善とし、また「施しはかえって相手をダメにする」的な価値観(昔暴れん坊将軍や大岡越前でも見た理屈)について考えさせられた。いっぱいのお酒で事態は何も変わらないかもしれないけど、それでももらったら嬉しいではないか、と。2021/07/28
fseigojp
8
文春4部作の3作め 渋沢栄一が深く関係していた2022/05/07