出版社内容情報
『JR上野駅公園口』と同じ「山手線シリーズ」の河出文庫『グッドバイ・ママ』の新装版。居場所のない一人の女に寄り添う傑作。
内容説明
夫は単身赴任中で、子どもと二人暮らしの母・ゆみ。幼稚園や自治会との確執、日々膨らむ夫への疑念、そして社会からの孤立。その思いは、「あの日」を境にエスカレートしてゆく。絶望の果てに「一人の女」がくだした決断とは…。居場所のないすべての人へ―全米図書賞受賞作『JR上野駅公園口』に並ぶ、「山手線シリーズ」の傑作。
著者等紹介
柳美里[ユウミリ]
1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に俳優として入団。87年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を受賞。97年『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)他多数。2018年4月、福島県南相馬市小高区にブックカフェ「フルハウス」をオープン。同年、「青春五月党」を復活させる。20年11月、『JR上野駅公園口』(「TOKYO UENO STATION」モーガン・ジャイルズ訳)で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
408
いくつもの視点と語りを内包する小説である。まず「女は…」と客観体で物語を紡いでゆく第三者の視点。女との間に共通の像を結ぶことのない他者たちの声。女自身の一人称的な視点。その中に内在し戯画的に立ち現れる「忍者ハットリくん」。旧陸軍戸山学校に代表される「地の霊」。幼稚園年少組の一子ゆたかの安全を何よりも優先する「女」はこうした強迫観念と混沌の中にいてひたすらに深い孤独の中にある。「女」にはもはや向かうべき行き先がない。あるいは初めからすべてを喪失していたのであったか。絶望するべき望みさえもなかったのである。2021/08/24
starbro
238
柳 美里は、新作中心に読んでいる作家です。「山手線シリーズ」第三弾、本書はモンスターマザーが主人公のファンキーでアナーキーな怪作でした。しかし忍者ハットリくんと731部隊が登場するとは思いませんでした。 本日、仕事でJR高田馬場駅を通過しました(笑) https://web.kawade.co.jp/bunko/11254/2021/04/21
やいっち
86
本作の語り手は、意識高い系の主婦。旦那は単身赴任。浮気している(と彼女は睨んでる)。子供を私立の幼稚園に。が、食事の際、子供たちを正座させることを入園させてから知って愕然とする。 幼い子を正座させたら膝を悪くする。脚が格好悪なる、と主婦は思ってる。知ってたら入園させなかったのに。あとの祭りである。園に抗議する。専門家や医者らに意見を求め止めさせようとするが、神道系の園側も頑固で主婦に受け入れさせようとするばかり。嫌ならやめて、である。園側からしたら、主婦はクレイマーと受け止めているかもしれない。2021/04/30
fwhd8325
83
3.11後、主人公のような方はたくさんいたのだと思います。近くにいられたら困るけれど、山手線シリーズの中では一番わかりやすい作品だと思いました。だけど、もうこのシリーズはいいかなと思います。苦しいです。2022/07/13
優希
62
しんどかったです。社会からの疎外感、圧迫感がリアルで苦しくなりました。自分個人であれば自分で守れば良いのですが、子供がいると子供優先になってしまうのは当然のことと思います。心を閉ざすべきか、守るものを守るべきか難しいところですね。2022/01/24