出版社内容情報
“蔦屋敷”に住む兄妹には、誰も知らない秘密があった――12年前に出会った忘れえぬ少女と再会したとき、美しい惨劇の幕があがる。
服部 まゆみ[ハットリマユミ]
著・文・その他
内容説明
蔦屋敷には、誰も知らない秘密がある…。十二年前の夏に出会った忘れえぬ少女・百合と再会した若き画家の淳。その日から淳の身の回りでは、不可解な事件が起こりはじめる。彼女は聖女か、それとも魔女か?美に囚われた人々の惨劇を描く、欲望と背徳の伝統的ゴシック・ミステリ。
著者等紹介
服部まゆみ[ハットリマユミ]
1948年、東京都生まれ。現代思潮社美学校を卒業後、加納光於のもとで銅版画を学ぶ。第10回日仏現代美術展にてビブリオティック・デ・ザール賞を受賞。87年、『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞し作家デビュー。2007年、肺癌のため永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
174
幼い頃に訪れた山の上の蔦屋敷。美しい少女、禍々しい屋敷の姿、かけられた呪いのことば。暑い夏によく似合う、白昼夢のような体験。 その悪夢を忘れないまま売れない画家となった淳に、ふと訪れる美しい少女との再開。時を同じくして起きる不可思議な事件の数々。 屋敷の陰鬱、美しい人びとの内の歪みと夏の熱。息苦しく禍々しく、あやしく美しい世界に浮かされて。美を崇め、それに囚われた人びとの悲しい愛と憎しみの物語。好きです。大好物です。この人の作品ぜんぶ読みたい。美しいこの作品の世界を表現できずもどかしい。2019/07/15
吉田あや
80
蔦屋敷に住む美しい兄妹と、そこに訪れた将来画家となる兄弟の、幻惑に彩られた美しく残酷な夏。背景や描写の美しさ、登場人物の鮮やかさ、紡がれる世界のゆらめくように輝く危うい魅力に心はすっかり取り込まれる。数々の謎と事件を追うことも面白いけれど、何よりも服部さんが魅せる耽美な世界が読む程に立体化し、質感を伴って包み込み、最後には登場人物と等しい気持ちでその屋敷のすべてが禍々しくも愛おしく、自ら茨に絡めとられていくように屋敷に囚われてしまう。罪深き背徳の美に酔いしれた。2018/08/24
mii22.
74
決して謎を解き明かそうとしてはいけない。この美しきものたちを壊してしまうから。ひたすらこの耽美な世界に浸ろう。著者初期の作品ゆえに文章の堅さはあるものの世界観は圧倒的だ。『この闇と光』より私はこちらの方が断然好み。この欲望と背徳の美しい世界に一度足を踏み入れたら、絡めとられてもう脱け出せない。読了後しばし茫然の一冊。2018/08/07
JKD
63
壮麗な蔦屋敷に美童虐殺。不思議な陶酔と恐怖が入り混じった妙な感覚に陥る。ラストは確かに衝撃ですが、それ以上におかしなモヤモヤが残りました。2018/09/09
カナン
53
甘美な悪夢が紙面から滲み出て、こちら側までをも侵食していく。目が眩むほどのその美しさも、窒息しそうな湿度も、熱に火照る体すらも、全てあの夏の日に置き去りしてきたはずだったのに。主人公を次々と苛む事件も悲劇も冴え冴えと彩っていく、兄達と少女達の圧倒的で暴力的なまでの美。バジリスクの瞳、長く垂らしたラプンツェルの髪、細い指が摘み取った皓く輝く銀竜草。謎は謎のまま残されて、誰よりも貴方に囚われたまま物語は事切れる。死臭とテレピン油の匂いに歪む視界の中で、緑の茨に囚われたままの永遠の少女の唇が誘う、悪い夢の続き。2022/08/06