出版社内容情報
戦死した画学生たちの作品を収集展示する美術館ーー「無言館」。日本中の遺族を訪ね歩き、遺作を預かる巡礼旅を描く。解説=池上彰。
窪島 誠一郎[クボシマ セイイチロウ]
著・文・その他
内容説明
戦時中に応召出征して戦死した画学生たちの作品を収集展示する美術館―「無言館」。設立に至るきっかけから、画家の野見山暁治とともに日本中の遺族を訪ね歩いて思い出話を聞きながら遺作を預かる著者の巡礼の旅。幼い頃に養父母に自分を預けた実父・水上勉との再会、一方の貧しい養父母の愛情に悔恨とともに気づく経験を重ねつつ描く鎮魂の遍歴。
著者等紹介
窪島誠一郎[クボシマセイイチロウ]
1941年、東京生まれ。作家、美術評論家、美術館館主。父親は小説家の水上勉で、幼少時に別離して養父母に預けられる。1977年に父と再会。1979年に信濃デッサン館を設立、1997年に同地に無言館を設立。翌年、『「無言館」ものがたり』で第46回産経児童出版文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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penguin-blue
38
無言館は美術館か慰霊碑かという議論があるそうだが両方の意味を持つからこその存在意義なのだと思う。昨年初めて訪れた、外も中もむき出しのコンクリートの飾り気ない建物の中に狭い間隔でびっしりと並ぶ絵や手紙。確かに中にはまだ稚拙さを感じる絵や通常は並べるのに躊躇するほど状態が悪いものもあるが、絵から受ける印象の強さは必ずしも巷説によらないことを実感する。絵と絵の隙間に私たちは戦争で立たれなければその先の未来に描かれていたはずのたくさんの絵や、戦火の中苦労して絵を守った遺族の思いを見る。2023/08/24
ふるふる
10
北海道立文学館で開催中の「無言館」展にて購入。本書の「ところどころに散見される自虐的でさえある(著者)自らの『戦後』否定」の部分は、読んでいるこちらが困ってしまうほどだったが、戦後生まれの私には理解できない屈折した思いがあるのだろうな、と。展覧会の説明文だけでは伝えきれない戦没画学生の遺族の思いに触れることができてよかった。2018/07/23
本命@ふまにたす
2
戦没画学生の描いた作品を展示する「無言館」が開館するまでの経緯について書かれたエッセイ。様々な戦没遺族が取り上げられつつも、あくまでも一人称的で自分史のようなものを核に綴られている印象。2022/08/14
ソフィ
1
美術館で目に留まり、2024/6に共同館主に就任した内田也哉子さんの帯に惹かれて購入。善行呼ばわりされることを強烈に否定し、でも無言館を作る理由を自問自答しながら遺族を訪ねる巡礼の旅。そして冷たくしてしまった養父母への贖罪の旅。最後に到達した答えに、世代は違っても、うん、とうなずいてしまった。2024/11/16
百年の積読
0
登場する戦没画学生は比較的裕福で恵まれた人が大半だが、その中で独学で絵を学び天涯孤独のうちに亡くなった大江正美のエピソードは印象的だった。読みながら16歳で招集されインパールで死んだ大叔父のことを考えていた。水呑み百姓の次男だった大叔父の物で残されたのは遺影となった出征時の写真だけで、直に彼を知る人ももうなく、そんな戦没者が大半である中でこうして色々な偶然の組合せで名前や作品や生前の思い出が記録された人々もいて、大叔父のことも何かの形で語り継がれていたらと、全ての人が同じように弔われたらいいのにと思った。2025/09/30