内容説明
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。
著者等紹介
中村文則[ナカムラフミノリ]
1977年愛知県生まれ。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。『掏摸』はアメリカをはじめ各国で翻訳され、世界的な新聞(ウォール・ストリート・ジャーナル)で2012年のベスト10小説にも選ばれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1086
作中で何度か回想される「塔」以外に主人公の過去は何も語られることがない。おそらく、それは孤独で暗いものであったことは想像に難くないが。あるいは、彼が見捨てることのできない少年にその面影が宿るかも知れない。中村文則の小説は、芥川賞受賞作の『土の中の子供』においてもそうだったが、どうにも行き場のない閉塞状況の中にあって、ひそかに個的な怨念を燻らせ、それが「書く」ことのエネルギーとなっている―そんな小説だ。本作でも主人公の孤独は深いし、周縁の闇は一層に濃い。エンターテインメント性に満ちたロマン・ノワールである。2015/06/15
抹茶モナカ
779
スリ師の僕が木崎という絶対的悪に取り込まれて行く。万引き常習犯の子供と売春婦であるその母親との交流も描かれる。この作品を読んでいて、中村文則さんの一人称の文体が、僕は好きなんだな、と思った。反社会的な作品だけど、読む価値あり。2014/12/06
パトラッシュ
637
社会の底辺を生きてきたスリが思いがけず命の危険に巻き込まれていく物語だが、人の財布をくすね、つまらない女と寝ては彼女の息子だけでも正道に戻そうとする彼の泥まみれの人生行路より悪の親玉である木崎という男の肖像が魅力的だ。犯罪集団を容赦ない恐怖で支配し、その緻密な手口は天才的なほどで、何より人の命などごみクズ同然に扱いながら「人生から得られるものを余すところなく味わう」哲学が凄まじい。これほど優れた悪、人を服従させてしまう悪は見事だ。木崎がどのようにして、悪の頂点に登りつめたのかを大長編にしてほしいと思えた。2020/11/30
zero1
591
天才的なスリの腕を持つ孤独な主人公。彼は運命に逆らうことができるのか?闇社会を舞台に、「最悪の男」木崎が3つの仕事を命令した。万引き母子を見捨てられないのが人間的。それまで自由だった彼。誰かと関係しているというのは損なのか?塔、伏線など構成は見事。文章は簡潔で冷たい。内容は暗くて重いが、人を描くという文学のテーマは十分。中村作品の中では評価が高く、海外でも出版されている。大江健三郎賞。2013年にはLAタイムズ文学賞にノミネートされた。木崎は「王国」にも登場。凡庸な人間こそ長生きできる?2019/02/26
ehirano1
576
#予想したよりもスリリングかなり楽しめました。#ある意味ハードボイルド作品とも受け止めることも可能ではないかと思います。#ほぼ全域に渡り登場する『塔』がメタとして印象的でした。#木崎が主人公に語る「貴族と奴隷」の話は、旧約聖書の「ヨブ記」が連想されました。#薄い本だけどいろいろな要素がたくさん詰まっています。#本書の妹編として「王国」という作品としてあるとかで(女性が主人公?)、これから読むのが楽しみです。2022/12/01