感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
52
猫の失踪の悲壮を綴りながら人生の喪失感を表現した絶叫文学「ノラや」(内田百閒)とか、猫を写し絵として自らの生きた来し方を振り返る家族小説「トラや」(南木佳士)とかを読むと、猫というものはつい人生を語らせるものなのだなと思うものだ。しかし、ここに登場するタマは人生を感じさせる存在ではない。単身者夏彦の部屋に飛び込んでくるのは、猫だけでなく男の悪友であり初めて会う兄。それぞれの生きざまを抱えた彼らの共同生活自体が、フランス文化に彩られているせいかアンチロマンの匂いが漂う。人生という因習を打破するかのように。↓2014/12/02
金吾
24
考えることもなく、力が入ることもなくサラリと読んでしまう本ですが、文体や雰囲気が好きな感じですので他の著書も探してみようと思いました。2023/07/20
ちぇけら
20
こんなにも梅雨なのにあまりに渇きすぎていると、おんなの欲望の震源地をさぐるように肌に指を這わせながら思った。餌を求めてニャオと猫が鳴いているのでもう朝かと時計をみるとまだ午前4時で、ぼくの硬くなりかけた物が気の抜けたソーダ水みたいに萎んでいく。あらもう終わりなのとおんなは言って、しかしすぐにシーツを身体に巻きつけて眠ろうとしていた。猫にミルクを与えて熱いコーヒーを淹れる。おんなはすでに眠っていて猫は夢中でミルクを舐めている。やはり渇きすぎている。ふと顔をあげると猫が濡れた眼でぼくを見ていてニャオと鳴いた。2020/06/12
sasa-kuma
14
あぁ面白かった。目白4部作は「小春日和」に続き2冊目。(順番はこの際無視で気が向くままに読む)小春日和が女性主体だったのに対しこちらは男性主体。嘘みたいな偶然の重なりで繋がってゆく男性陣と、もれなく放浪癖がありそうな女性陣、そして猫。ながーい文章にのって流れてゆく日々。日本ではないようなゆるい脱力した時間。これに実在のモデルがいるということに驚き、そして興味津々。桃子、花子、おばさんに再会できてうれしい。2015/01/31
zumi
14
「猫ってものはさあ、やーらかいって感じがしない?」144頁、「や」という字を分解して、二つの耳・前肢・胴体・後肢・尻・オッポに見たてる箇所は見事としか言いようがない。書字そのものが持つーーそれは決して漢字にはないーー独特のたおやかでゆるやかな感じを巧みに引き出している。平仮名が他の作品と比べて多いのもそれと関連するのだろうか...... 言葉と肉体(猫の)は密接に絡み合い、文字はまたそれまでとは異なった表情・表皮・表層を見せるようになる。やはり金井美恵子の作品は素晴らしい。猫好きの方も是非......2014/04/03