感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
371
ページ数が少ない割には時間を要する。なぜならば、一文一文、一語一語の内包する情報量がとてつもなく多いからである。つまり、それらを咀嚼し味読するのに手間取らざるを得ないからだ。残念ながら私にはそれ相応の知識が欠落しているがために、十二神将のシンボリズムは理解できなかった。ただ、それを除けば小説としては極めて贅沢な世界がそこに現出する。そして、言葉の隅々に至るまでが、これ以上はないくらいに見事に彫琢されている。また『雨月物語』中の「菊花の約」、三島の『仮面の告白』の面影の揺曳も本歌取りのような趣きを付与する。2019/11/16
榊原 香織
72
現代短歌の鬼才による推理小説。 ん、完全趣味に走ってるなあ。 華麗、文化度高し ミステリ界の源氏物語的 かなり珍しい作品では?2022/10/27
ケロリーヌ@ベルばら同盟
53
炎暑の名残を留める黄昏、大輪の白花が散る。神々しいまでの美丈夫の死を悼み、深く首を垂れる罌粟の方陣は、何時しか神将達が佇立する立体曼陀羅へと変容する。神々の胎内から零れ落ちる輝石が闇に虹を描き、重く冷たい丁子の香は彼岸と此岸を隔てる絢なる緞帳となる。選ばれし美しき人々が玻璃の舞台で演ずる戯曲は、凡百にはあまりに眩しく、唯々散り残る花弁のよすがに縋るのみ。砕け散る玻璃の残響をかたみに暫し酔い醒めの夢に漂泊う。2021/06/23
ネムル
20
前衛短歌の巨人塚本邦雄描く、プチ『虚無への供物』とも『罌粟への供物』とも言われる稀書。研ぎ澄まされた怜悧な文章と香気に酔いしれ、というか完全にアテられる。「鰯の裂鱠を肴に手酌でかれこれ小一時間、飾磨家の晩餐は終らうとしてゐるのに、居候の淡輪空晶の方は別卓で例によって悠悠と構へ、この分では仕上の茶漬に漕ぎつけるのは八時頃だらう」、もう書き出しからこれだから。この濃密さのまま殺人事件が十二神将像、本草、サンスクリット、茶道、魔法陣、しまいにはフランコ・ネロまで取り込んじゃう時点で、もうわけわかんない、すごい。2013/07/16
麩之介
14
本は薄いがぶっとい中身。香り高く流麗な日本語が織り上げる絢爛たる世界にもう腹いっぱい。酔う。ミステリーに分類されるようだけど、謎解きとかもうどうでもいい、という気分になり、縦横無尽の教養に幻惑され弄ばれる心地が気持ちいいのかなんなのか、もはやよくわからない。十二神将、九曜、茶事等、東洋的な意匠に彩られているが、作中何度か女性の登場人物が擬せられる「巫女」、これは神道の巫女でなくて古代ギリシアのマイナス的なニオイがする。いやどうだかわからんけど。自分の教養のなさを思い知った。何度か読み返すことになるだろう。2017/09/08