内容説明
月の船、流星のささやき、楽園の鳥…一冊の本を鞄に入れて出かけた旅の途上で出逢った、不思議な街と夢と人々。夢想の船に乗って、京都・大阪・神戸をゆく、魅惑の幻想旅行紀。JR西日本「三都物語」キャンペーンで連載。
目次
遊覧(噴水園;三日月少年;青玉レンズ;白雲母に眠る ほか)
逍遙(月の船で行く;檸檬とリボン;キララ星;ロケット壜ソオダ ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
135
知らない町ではふしぎが辻の角で待っている。夜のくだもの屋さんあたたかな電灯に照らされて本を読む少年の姿はまるで檸檬。桜のしたで土に埋めたくて蒸し暑い夏は上海のお酒を片手に夜景をみたい。いろづく葉をみたらどこかに帰りたくて無駄に感傷的雪に散る椿の紅さは不穏なくらい静かだ。煌めくシトロンいつだって疎外されてる気になるのにそれが心地よいのは旅人だと言い訳ができるからかもしれない。もう少年たちとおなじ温度で町をみられないけど、きっとそれも悪くないのです。2020/11/19
mocha
104
京都・大阪・神戸「三都物語」からもう20年も経つのか…。キャンペーンのために書かれた、数ページずつの幻想旅行記。ガラス細工のような、繊細でキラキラした言葉が散りばめられている。「三日月少年」もそこここに立ち現れて、短いお話に長野ワールドがギュッと濃縮されている気がする。迷子になりたくなる世界だった。2016/03/05
(C17H26O4)
82
旅行先にて、迷い込むように行き着いた場所でほんのひととき異界や冥界との路が開ける。不意に現れた少年は何者か。ああ…あの少年は…。気がつけば少年の姿はもうない。会うはずのないものに出逢ってしまった後、不思議なことが消えてしまった後、怖さよりも情景の中に置いていかれたような気持ちが残り、うら悲しい。夏の午後の黒燿石の影。仄暗い庭の野いばらの蔓。洋墨を流したような碧の水平線。夜天の紅硝子の月。長野さんによる三都物語。2021/08/22
あきあかね
26
「幻想」と「現実」のあわいを揺蕩うような掌編。長野まゆみさんの作品は、幻想と現実の比重が作品によって違っていて、現実の方に軸足を置きつつ、時に幻想がちょっと顔をのぞかせるという塩梅が自分にはしっくりくる。 舞台は神戸、京都、大阪といった実際の場所であるが、異国情緒や古都といったイメージを残しつつ抽象化されている。洋館のたたずまいの残る神戸旧居留地の画廊で、精巧な自動人形のオブジェを案内してくれた少年が最後に「僕も」と云い微笑して去っていった話。十年前の京都の修学旅行で食べた「宇豆良登理(うずらとり)」⇒2020/03/29
❁Lei❁
25
旅行先で出会った不思議な少年たちのおもかげを描いたショート・ショート。地下にある画廊の番をしている少年。鳥籠を持って庭園を歩いている少年。しかし、振り返ればもうその姿はない……。現実と延長線上にある異界に足を踏み入れるような旅の醍醐味に、古都の風情が相まって、うっとりロマンチックなSFに仕上がっています。近未来を舞台に少年たちのささやかな日常を描いた後編も、想像力を刺激されてたのしい。それにしても、三日月少年って何者なのだろう。独特な美しい造語から、長野ワールドにますます惹かれるこの頃です。2024/10/09