内容説明
長崎原爆の被爆者が群れ住む“海塔新田”。―そこを舞台に、原爆、部落、朝鮮、炭鉱等、あらゆる戦後的主題を擬縮させ、虐げられた人々が虐げあう悲惨と残酷をえぐるなかから人間の条件を問うた、井上文学の核心を示す代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
かおりんご
47
小説。戦後の長崎が舞台。被爆者への差別や部落差別が入り交じっていて、何が何やら混乱した。勉強不足を痛感。我が子を被爆2世だと思いたくない母親は、自分は8月9日に長崎にいなかったと嘘を突き通す。被爆したことが原因で結婚できない男は、部落の娘を手込めにする。人間の醜さに焦点が当てられているので、読んでいて気持ちが沈んでしまった。2016/05/15
りつこ
32
ヘヴィな小説だった。被爆したことを恥と感じたり差別するというのがいかにも日本的な感じがしていや~な気分になった。虐げられているものが虐げられているものを誹謗中傷する。被害者が加害者になり、差別的な言葉を吐き、互いの憎悪を募らせる。そしてここに描かれる戦争の爪痕の生々しさ。人間の醜い面をこれでもかと見せつけられ、毒にやられたけれど、たしかにここには人間が描かれているのだと思った。しんどかった。2015/11/09
fseigojp
18
井上光晴 初期代表作 重いが目がそらせない 中上健次と相通じるものがある 今後は井上荒野の父として知られるようになるだろうけど 次は西海原発を読もう2016/04/28
sabosashi
16
吉本さんちと同じで井上さんちも娘のほうが親よりもメジャーになってしまった。むげに悲観しても仕方がないだろうが。少なからぬ若いひとがそうであるように、わたしも井上光晴は「明日」から読み始めたような口(もっとも雑誌「使者」終刊号で読んだのだが)。もっとも雑誌「世界」にも短篇連作が掲載されててよく読んだものだが。井上作品に心酔してナガサキ・佐世保界隈を彷徨したいものだが、そんな景色やら世界はいまでは残ってないものと思ったほうがいいだろう。だからといって全集本をこつこつ読みはじめるほどガッツがあるわけではないが。2025/08/30
michel
14
★4.0。”海塔新田”、そこは長崎原爆の被爆者が身を寄せ群れ住む部落。朝鮮人への、被爆者への、部落への3視点からの差別が、地に群れる人間の醜悪を浮き彫りにする。さらに炭鉱労働や社会主義運動の影も加わり、戦後日本の混沌が凝縮されて浮き彫りになる。医師・宇南親雄を中心に、福地徳子、津山信夫、家弓安子、入れ代わり立ち代わり、そして交差しながら、それぞれの視点から私たち読者に後ろ暗さを突き付ける。衝撃的な作品。2021/06/05
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- 和書
- 日米安保体制史 岩波新書




