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内容説明
廃墟の石灰工場で聴覚の研究を続けていた男はなぜ妻を射殺したのか―。加害と被害、妄想と錯乱が反転しながら破滅へとつきすすむ戦慄の代表作。日本にベルンハルトを知らしめた伝説的長編、43年目に新訳。
著者等紹介
飯島雄太郎[イイジマユウタロウ]
1987年生まれ。京都大学文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hasegawa noboru
25
いきなりの冒頭、夫による夫人射殺事件の犯人として、主人公コンラートが登場するのには驚かされる。五年前にいとこから買い取ったという石灰工場での二人の生活はどのようであったかが、周辺人物への主人公の語り、間接話法、伝聞の積み重ねによって明らかにされていく。例によって改行、段落分け、章立て一切なしで続く、砲弾みたいなことばの塊り。救いようない絶望の砲弾。読むに進まず、息苦しいが、それでも惹かれるものがあるのはなぜだろう。作家の今ある社会への激しい怒りのトーン故か。例えば主人公の世界認識のことば。<何を見ても2025/03/16
rinakko
7
新訳にて10年ぶりに再読。あらためて凄まじい読み応えだった。ぐねぐね絡みついてくる呪詛節が堪らない。人里離れた場所にある元石灰工場に引き籠り、障害のある妻と暮らしながら聴力についての論文の執筆をしていたという主人公が、その妻を殺害するにいたった経緯を本人の言説からたどっていく。妄想にとり憑かれ明らかにどうかしているコンラートのことが、ふっといじらしくなったり、身につまされるような気分になったり、空回り続ける理屈と口実に笑ったり。あと、独学の素人の悲哀も感じた。(ノヴァーリスの『青い花』は酷だったのでは…)2025/02/12
バナナフィッシュ。
6
あまりに妄想癖のある男の物語。とにかく生産性のあることはしないし、一日中奇妙な実験を繰り返している。友達もいないだろう。こんなに意味のない会話を覚えている人物もすごいというか、ヤバいやつと認識した上でメモをしていなければ成立しない設定。英語で言う岩の下に住んでいるような二人組を街中でも見るけれど、それぞれの地獄というか、愛憎まみれた生活はあるのだろう。2024/11/04
朧冠うつら
3
どうしてこれを読み上げたのかあまり分からない。本当に読む必要がないなって判断した本は問答無用で途中で切り捨てるので。必要なくはない気がしたのかな。あまり言いたくはないけど、保険みたいな感じ。誰だってどん底まで落ちたらこういう心境になるときがやってくる。特に老いに関しては。その前に予習しておきたいみたいな。既にこれと似たような気持ちと折り合いをつける習慣はあるんですけど。書いてることは結局のところどの本も同じだけど、ウィトゲンシュタイン的な哲学を感じる幻想文学って拡がりがないからつまんないんですよね。けっ2025/05/04
まんぼう
2
怒涛の反復シームレス文体に脳みそ侵食されるかと思った。自ら孤独に追いやり、妄想や精神病的狂気を装い、重大な何かに忙しくしていると思い込む事で、先は崖なのにもはや進むしかない恐怖と現実を覆い隠す。互いに絡みつき継ぎ接ぎして塗り固めることでかろうじて立っている夫婦関係は、自分の祖父母を見ているようであり、両親を見ているようであり、さらにはもしかしたらの自分の未来までも予感させられ…。なんともグロテスクな作品だった。2025/03/18